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第10話 それぞれの愛

エキドナは一通り話し終わると、ふう…とため息をつき壁にもたれた。
対する俺は、エキドナにそんな辛い過去があったと思ってもいなかったので
なんて声をかければいいかを模索していた。

「ざっとこんな感じだわ」

エキドナは龍神像を懐かしそうに見上げながら話した。
その後、俺と出会うまでの約10年間ほどパートナーを探しつつ修行を重ねていたものの、
魔天使と渡り合えそうな人物など当然のように出会えなかったらしい。
そんな時、昔仕事仲間だったロズとアイズに子供ができたと知り、遥々俺を拉致しにきたらしい。

なぜロゼとアイズの子供だからという理由だけで、俺に目をつけたかは今のところ話されていない。
まあソフィア様から聞いていた話と違う部分や色々と気になる事は他にもあるが、
これ以上エキドナに話をさせるのも申し訳ないので本題を聞くことにした。

「それで師匠。どうして僕をここに?」

そう問われたエキドナは、ああ…!と忘れていたかのような反応だった。
本題忘れてたのかよ…。

「ロト、あなたは強くなるわ。それも私が今まで出会ってきた中で一番」

その言葉は今の妖麗なエキドナのものではなく、
辛い過去をもつ1人の女性が込めた期待の乗った言葉のように聞こえた。

「修行をつけてきて確信したわ。貴方には膨大な魔力と、戦闘のセンスがある。
これなら…私が極められなかった時空間魔術の使い手になれるかもしれない」

「時空間魔術…ですか?」

名前からして厨二心をくすぐってくる。ぜひ使ってみたいものだ。

「時空間魔術は、魔術の中でも才のあるものにしか使用できない。
戦闘方法は単順で、時空間を曲げながら戦う魔術よ。
そして応用することができれば…魔術の中では最強の呼び声が高いわ」


そんな最強と言われる時空間魔術を、どうやらエキドナに教えてもらう事になるらしい。

できるのか…俺に。
一瞬弱気になった自分がいたが、生前何もしなかった自分を思い出し雑念を振り払った。

「あなたがもし…時空間魔術をマスターできたなら…いや、できるわ。
ロト、私はあなたと戦う事を決めたわ。だからここへ連れてきた」

んん?告白か?これは多分告白だよな?
何か勘違いをしてしまった俺は告白ですかと訪ねた結果、
珍しく顔を赤くしながらこのマセガキが…と本気で睨みを効かされた。うう、怖いよ。

「とにかく…あなたには時空間魔術を覚えてもらって、将来天界へ私と行ってもらう。
今日はパートナーになるあなたの存在を、龍神様に紹介しにきたのよ」

そんな話をしていると、
エキドナと俺の脳内にドスを効かせ大地を揺るがすような咳払いが流れてきた。

「そろそろいいかね…」

言わずとも待ちくたびれていたことがわかる声色で主は話す。
エキドナは10年ぶりにおじさんに再会した孫のように、その声の主へ挨拶をした。

「お久しぶりです…!やっと…見込みのある者に出会えました」

パッと晴れた顔で話すエキドナはいつもと違って可愛く見える。ギャップってやつか。
それと、本人である俺の前でそんなに褒めるのはやめてくれ。惚れそうになる。
あれ、俺ってもしかしてちょろい…?
俺の乙女な葛藤など知る由もない2人の会話は続いた。

「うむ…エキドナよ…見つけたな」

声の主は、孫の成長を喜ぶようなおじさんのように話した。
エキドナの話を事前に聞いていた俺は、声の主が何者かはすでに分かっていた。

「初めまして龍神様、ロト・アルクトゥルスと申します」

ドナルガティに挨拶をすると、うむ、先程からお主らの会話を聞いておったぞと少し笑いながら伝えられた。
なんか恥ずかしい。当然、俺なんかよりもエキドナのほうが恥ずかしそうにしていたのは内緒だ。

「ロト・アルクトゥルスよ。お主と精神体を干渉しておると、何やら懐かしい気分になる」

何か嬉しくて調子に乗った俺は、冗談混じりにおじいちゃんと呼んでいいですかと尋ねた。
エキドナはその発言に顔を青ざめて焦っていたが、好きにしろと意外にもおじいちゃんの返答は優しかった。
生前、褒められることがなかった俺が、こうして家族のように迎えてもらってるんだ。嬉しくないわけがない。
エキドナは俺との修行の日々をドナルガティに話し、一通り区切りがついたところで龍神様が話しかけてきた。

「時にロトよ…。お主は敵に殺されるよりも、自分に殺されないように気をつけよ」

何やら龍神様がアドバイスをくれたが、よく意味が分からなかった。
気持ちが浮かれている俺は、とりあえず心に留めておこうと思うくらいで、深くは考えなかった。
無事に俺を紹介し終え龍流場を出た俺とエキドナは修行場へ向かい、
さっそく時空間魔術の修行を始めた。

「何だか師匠、僕幸せです」

心の底からそう思えたから、笑顔でエキドナにそう伝えた。
エキドナは最初こそ冷静を装おっていたが、
我慢ができなかったのかそれはよかったわと微笑みながら話した。

幸せを守るために、家族にまた会うために、
この世界でロトが戦う理由は、これからも増えていくのであった。



♢♢♢♢


空は曇り、最後の力を振り絞るようにボロボロの木々が揺れている。

風が吹き荒れているためではない。全て魔術の使用による衝撃波のせいだ。

「…………………」

ーー「ロトッ…!!お願い戻ってきてロト…わだじを…っおいでがないでっ…!」

ーー「黙れエキドナ…もう、お前に用はない…」


♢♢♢♢

この世界とは何だったのだろうか。

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