ゆく人くる人
辺境都市ガタコンベも年末です。
僕の世界の役場なんかは年末の28日から1月の3日までは法律で定められた休日ってことでお休みしていたのですが、ガタコンベで言いますところの役場業務をおこなってくれています商店街組合は年中無休24時間誰かが働いている状態です。
ただ、これは仕事が忙しいからとかそういうのではなくてですね……あ、いえ、実際に仕事はそれなりにあるんですけど、この商店街組合で働いている蟻人達の習性ゆえと言えるかもしれません。
ガタコンベの商店街組合の組合長はアレアですが、彼女を筆頭にした蟻人達は商店街組合の仕事をこなしながら辺境都市ガタコンベの業務も行ってくれています。
何しろ、この辺境都市ガタコンベはド田舎すぎたせいでですね、最後の領主がいなくなって以降、王都から新しい領主が派遣されてくることもなく、それに歩調を合わせるように役場で働いていた人種族の人達も、住人のほとんどが亜人種族のガタコンベにいるのが嫌になったらしく、
「王都に戻ろう……」
ってな具合でどんどんいなくなってしまった結果、現在は役場と商店街組合が合体した格好で運営されている状態なんですよね。
これには理由がありまして……金銭管理に非常に長けている蟻人達は、ガタコンベに領主が存在していた頃から役場の財務事務仕事を行っていたそうなんです。
亜人種族ですので、ガタコンベが嫌になることもなく、そのままずーっと頑張ってくれているそうなんです。
ほとんど見た目が同じ蟻人達なんですけど、彼女達は……あ、蟻人はですね、種族の特製としてほとんど全員女性なんだそうなんですよ、で、その彼女達は、独自のネットワークをもっていてですね、自分達の間で自主的に人事異動を行っているそうなんです。
これは、同じ部署に長く居座ることで、不正をおこなっているのでは? そう思われることを未然に防ぎつつ、実際にそんなことをしでかす仲間が出ないようにお互いでお互いを監視する、そんなシステムを作り上げているそうなんです。
そんなだからこそ、どこの都市でも、蟻人達は信頼されて商店街組合の仕事を任されているんですよね。
その逆に、商店街組合や役場の仕事以外はよほどのことが無い限り受けないんです。
これにも、もちろん理由がありまして……彼女達が商会や商店に勤務すると、当然その店のために働くようになるわけです。
そうなると、役場の蟻人達と通じてですね、自分が勤務している商会や商店に便宜を図ってもらおうとしているのでは……そんな疑義をかけられないようにするための措置なんだそうです。
会計処理がうまくいっていないお店に、経理指導として出向くことはあるみたいなんですけど、あくまでそれも一時的なわけです。
実際、僕も昔、蟻人達を雇用させてもらおうと思ったことがあったんですけど、先ほどの理由で断られた次第なんですよ。
◇◇
今朝のこと……
そんな蟻人さんがコンビニおもてなし本店を尋ねて来ました。
「タクラ店長兼領主代行様、おはようございますます。役場関係の文書をお持ちしたですので、夕方までに目を通してくださいですです」
コンビニおもてなしの店長の僕ですけど、この辺境都市ガタコンベの領主代行でもあるんですよね。
まぁ、なり手がいなかったため、この都市に唯一住んでいる人種族である僕に、領主代行なんていう過分な役職が回って来たわけなんですけど……いや、そもそもこの世界で産まれた人じゃない僕なんかがそんな大役を仰せつかってもいいのかなぁ、と、今も時折自問自答することが少なくないんですけどね。
で、まぁ、そんなわけで、ガタコンベに関する文書……あれです、代行とはいえ一応領主なんで、目を通しておかないといけない書類なわけです。それを蟻人が持って来てくれたわけです。
……が
「あれ? 今日はアレアじゃないんだね?」
僕はその蟻人にそう言いました。
そうなんです。
僕のところに書類を持って来てくれるのはいつも組合長のアレアだったんです。
ですが、今日は別の……それも、はじめて拝見する蟻人さんが書類を持って来てたんです。
「はいです。私は今日からこの辺境都市ガタコンベ商店街組合の、組合長として移動してまいりましたボレボですです。挨拶を兼ねてお邪魔したのですです」
そう言うと、その蟻人さん~ボレボは深々と頭を下げてくれました。
「あぁ、そうなんだ……ちなみにアレアはどこに移動になったんだい?」
「はいですです、アレアはオザリーナ村に移動になったですです」
あぁ、オザリーナ村!
辺境都市ララコンベの山1つ越えたところにある、オザリーナが村長として頑張ってるあの街なんだ。
ちなみに、チュパチャップが店長を務めているコンビニおもてなし6号店もあります。
「あそこならコンビニおもてなしの支店もあるし、今度行った時に挨拶でもしておくよ」
「はいですです、よろしくお願いしますですです。では、タクラ店長兼領主代行様、これからもよろしくお願いいたしますですです」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
僕と挨拶を交わしたボレボは、すぐに商店街組合へと戻っていきました。
小走りで帰って行く後ろ姿なんかは、ホントにアレアにそっくりです。
「しかしあれですねぇ……蟻人さんってホントにそっくりですわね。私、最初アレアさんと勘違いしておりましたわ」
レジにいた魔王ビナスさんが、僕の隣でボレボを見送りながらそんな事を言っています。
それぐらい、蟻人さんって、声といい、姿形といい本当に似通っているんですよ。
そんな別れと出会いがあった中……
コンビニおもてなしに、待望の新入社員が加わることになりました。
先日からコンビニおもてなしの新人研修を受けていたマキモと、その姉妹合わせて10人がですね、魔王ビナスさんによります研修を無事に終えまして、今日から晴れてコンビニおもてなしの正社員として働き始めることになったんです。
いつものように長い袖のシャツを着ている、小柄で眼鏡なマキモさんは、魔王ビナスさんの後方から僕の前に移動してくると、
「タクラ店長さん、今日から社員としてよろしくお願いいたします。ユウモ姉さん始め、私達姉妹一同、一生懸命頑張ります!」
そう言うと、深々と頭を下げてくれました。
同時に、その後方へと集まっていたマキモの姉妹達もですね
「「「よろしくお願いいたします」」」
そう言って、同時に頭をさげてくれた次第なんです。
以前研修の末に雇用した新人さんの大半が辞めてしまって困っていたコンビニおもてなしなんですけど、今回は期待出来そうです。
その能力に関しては、魔王ビナスさんが
「今までに研修したコンビニおもてなしの店員候補さんや、魔王軍の幹部候補さんの中でも格別ですわ」
と言ってくれたほどなんです。
……えっと、魔王軍の幹部候補に関しては別にどうでもいいのですが……
それに、10人はみんな姉妹ですしね。
何かあってもお互いに助け合ってくれるんじゃないかなって思ってるわけです。
もちろん、僕も、新人研修係の魔王ビナスさんも、それにみんなを配属した先の店長一同も、めいっぱいサポートさせてもらうつもりですけどね。
……で、あとは……
僕がチラッと横目で見た先には……今も新人研修を続けているウルムナギ又達の姿が……
「ビナスさん……あの子達は……」
「……まだまだかかりそうですわ」
僕の言葉に、大きなため息をついた魔王ビナスさん。
……うん……みんなすごくやる気はあるんですけどねぇ……