コンビニおもてなしの新人さん
「ほぉ、これがデラマンモスパオンの肉ですか、うむ、確かに美味(びみ)でござるな」
その日の夕方。
コンビニおもてなし本店の隣にあるおもてなし酒場の中で、イエロは、僕が焼いたデラマンモスパオンの肉にかぶりついていました。
それだけではありません。
その周囲には、セーテンやグリアーナといった、コンビニおもてなしの狩猟部門の面々が集まっています。
みんな、イエロ同様にデラマンモスパオンの肉を美味しそうに頬張っています。
某はじめ人間のアニメ風に、でっかく輪切りにしてあるデラマンモスパオンの肉。
寒冷地で活動しているデラマンモスパオンだけあってか、その肉はギュッと引き締まっています。
それでいて、寒さから身を守るために、赤身の間に綺麗に脂身が入っているという、いわゆる霜降り状態になっているんです。
その霜降り具合がすっごく絶妙でして、肉を口の中で噛みしめるとその脂身部分からじゅわっと肉汁がしみ出しまして、口の中を肉の旨みで満たしていくんです。
で
そんな肉をみんなに振る舞っているのには訳があります。
イエロ達が陣取っているテーブルには、3人の冒険者の姿がありました。
この3人なのですが……1ヶ月ほど前に、コンビニおもてなしの狩猟部門の店員として専属契約を結べるかどうか、バイトとして試用期間を過ごしていた面々なんです。
最初、10人いた面々なのですが、最終的にこの3人が残りまして、今日から正式にコンビニおもてなしの狩猟部門の店員として専属契約を結ばせてもらうことになった次第なんです。
鳥人族のコルミナ
豹人族のチハヤス
ゴーレム族のドナーラ
その3人の横に移動していった僕は、
「じゃあみんな、これからよろしくね」
笑顔でそう言いました。
そんな僕に、3人は、
「お任せくだされ!このコルミナ、兄に負けぬ働きをして見ませますわ!」
そう言って、胸を叩いたコルミナ。
「アタシも、姉さんに負けたくないしね」
そう言って頷くチハヤス。
「ドナーラハソンナコトヨリ美味シイ物ヲ食ベレテシアワセ」
そう言いながらデラマンモスパオンの肉を頬張っているドナーラ。
なんでも3人のお兄さんやお姉さん達も冒険者だそうでして、今はとある辺境都市で衛兵として働いているんだそうです。
しかもそこで、精鋭部隊っていうのに抜擢されているそうで、その辺境都市の領主さんを専属で護衛する任務にあたっているんだとか。
確かに、そんなお兄さんやお姉さんがいたら張り切らざるをえないですよね。
そんな思いがあったからなんでしょう。
この3人は、試用期間から成績が抜群でした。
他のバイトのみんなが劣っていたわけではないのですが、この3人が群を抜いていたわけなんです。
本当はあと2人ほど採用してもよかったのですが、
「あの3人と比較されるのはちょっと……」
「アタシにもプライドがね……」
そう言って、辞退されてしまったんです。
すごく残念だったんですけど、
「気が変わったらいつでも来てくださいね」
僕は2人にそう言って、少ないですけど交通費的な金貨と、食事の入った袋をあげた次第なんです。
こういった亜人の冒険者の人達って、最近すごく増えているそうなんです。
と、いいますのも、この世界のど真ん中にあります王都ってところが、人種族至上主義っていうのを教義にしているボブルなんとかっていう宗教を推奨している関係で、王都で働いていた亜人の傭兵団を閉め出しちゃったらしいんですよね。
そのせいで解散した傭兵団も少なくないそうでして、そうして仕事を失った亜人の人達が冒険者として各地を転々としているんだとか。
そのおかげ……と言ってしまうと少々語弊がありますけど、こうして優秀な人材を雇えたわけですので、とりあえずは喜んでおくことにしようと思っています。
少なくとも、僕はそのなんとかバム教とかいうのを推奨する気はまったくありませんからね。
今後も、人種族の人でも、亜人種族の人でも、問題ないと判断したら積極的に雇わせてもらうつもりでいます。
で
今日から雇用することが決まったこの3人ですが、その3人の歓迎会をイエロが主催して、ここおもてなし酒場で開いているわけです。
僕は、そんなみんなに料理を振る舞うためと、みんなに挨拶をするために参加しています。
「みな、よろしく頼むぞ。明日から早速戦力として働いてもらうでござるからな」
「「「はい!」」」
イエロの言葉に、3人は元気に返事を返しています。
「まぁ、それは明日からキ。今日はしっかり飲んで食うキ」
「「「はい!!!」」」
セーテンの言葉に、3人は明らかに先ほどよりも大きな声で返事をしました。
そしてみんな、酒を飲み、食べ物を口にしています。
その顔には満面の笑顔が浮かんでいます。
その笑顔を見ていると、僕までなんだか嬉しくなってしまいます。
3人には、これから頑張ってほしいものです、はい。
◇◇
さて、そんなわけで、集まっていた10人の冒険者のうち7人は不採用になったのですが……
実は、その中の1人を別途引き留めているんです。
「はわわ……わたわたわたしの様な者をコンビニおもてなしの内勤として雇用してもらえるのですかぁ!?」
小柄で、袖の長いシャツを着ている女の子の冒険者は、袖の先をだらんとさせたまま、大きな丸眼鏡の奥の目を丸くしていました。
この女の子、マキモさんと言いまして、栗鼠人さんです。
背に、大きな巻き尻尾がある小柄な亜人の女性なんです。
最初は、イエロ配下の狩猟部門での採用を希望していた彼女なのですが……頭の回転が速くて、罠などの設置に関しては非凡な才能をもっていたものの、いかんせん体力がなく、腕力もなく……なものですから、早々にイエロの訓練から脱落してしまったんです。
ただ、その成績を見ていた僕は、
……このマキモさんって、算術にすごく長けてるなぁ
と、感心していた次第なんです。
と、いうのも、前述したように罠の設置の発案などをする際に、どのような罠をどのような角度で設置すればいいのか、を、図面に起こしてイエロに提示していたんですけど、その図面に目一杯かき込まれていた数式が正確なことこの上なかったんですよ。
……ひょっとしたら、この人、内勤の方で戦力になるかも
そう考えた僕は、マキモさんに
「よかったら内勤の方の研修を受けてみられませんか?」
そう声をかけてみた次第なんです。
で
それを受けてマキモさんは
「よろよろよろしくお願いしますです~」
そう言って、深々と頭をさげた次第です、はい。
……しかし、あの大きな尻尾……ふかふかで気持ちよさそうだなぁ
そんな事を考えながら、マキモさんを新人研修係の魔王ビナスさんに預けた次第です。
先日あちこちの街に配布した求人票の反応はまだですけど、商店街組合に配布した分に関しては結構反応があるって聞いていますので、そっちの成果も楽しみにしている次第です。
とにもかくにも、まずはこのマキモさんが戦力になってくれたらな、と、思っている僕でした。
◇◇
その夜……
僕は、いつものようにスアの研究室にいました。
いえね、子供達にバレないように、この研究室の中にある簡易ベッドで夫婦の営みを行うのが僕とスアの日課なんですけど……
「スア……その尻尾はどうしたの?」
思わず、そう聞いた僕。
そうなんです……僕の前で裸になっているスアなんですけど……そのお尻の部分にでっかい尻尾が生えていまして……
「……モフモフしていいの、よ」
スアはそう言いながら僕に抱きついているのですが、
……あ、そうか
ここで僕はあることに思いあたりました。
昼間、マキモさんの尻尾をみながら
『あの大きな尻尾……ふかふかで気持ちよさそうだなぁ』
そんな事を考えていたもんだから、スアが自分に魔法をかけて、僕の願いを叶えてくれたってわけなんでしょう。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
僕はそう言うと、スアの尻尾を思う存分モフモフしていきました。
そんなわけで、この夜の僕達は尻尾モフモフからの……っと、これ以上は黙秘させてもらいますね。