雪山で雪遊び その5
その夜。
僕達は宿の中の大部屋に集まって寝ることにしました。
「ここは宴会にも使用出来る部屋クマよ」
クマタンゴさんはそう言って笑っています。
布団はなかったのですが、スアが召喚した転移ドアを使用してコンビニおもてなし本店から持って来ました。
いえね、コンビニおもてなし本店の横にはおもてなし酒場がありまして、その2階と3階が宿になっています。
そこで使用する布団の予備を大量に準備してあるんです。
これは部屋におさまりきらない程のお客さんが殺到した際に、宿の部屋の床部分に布団を敷いたり、酒場の床に敷いて使用出来るように常備してあるんです。
ちなみに、この布団はすべてテトテ集落の皆さんによる手縫いです。
で、この大部屋にその布団を持ち込んだところ、
「お布団敷きます!」
パラナミオが元気な声で布団を運んでいきました。
その声に合わせて、リョータやクリッタちゃん、それにクマンコさんの子供達が一斉に布団の山に群がっていきまして、部屋の中に布団を敷いています。
すると、いつのまにかみんなの間を枕が飛び交い始めまして……
「きゃあ!? やったなぁ」
「あはは、負けないクマ!」
「アルカちゃんは僕の後ろに」
「は、はいアル、リョータ様」
気がつくと、大部屋の中は大枕投げ大会に発展していました。
この世界に枕投げという慣習はないはずなんですが……こういう開放的な場所だと、自然発生するものなのかもしれませんね。
クマタンゴさんは、
「これこれ、みんな騒ぎすぎじゃクマ」
そう言って止めようとしたんですけど、そんなクマタンゴさんに僕は、
「今日は、僕達しかいないんですから、ちょっとぐらいいいじゃないですか」
笑顔でそう言いました。
「まぁ……た、確かにそうクマけど……」
と、最初は困惑気味だったクマタンゴさんですけど、子供達が楽しそうに枕を投げている様子をみているうちに、その顔が笑顔になっていた次第なんですよ。
その後、僕・スア・クマタンゴさん・クマンコさんの保護者組は、部屋の隅に移動しまして、そこから子供達の様子を笑顔で眺めていました。
◇◇
しっかり遊んだからでしょう。
子供達は枕投げが終了すると、あっという間に眠りこけていきました。
中には、布団の上で寝息をたてている子供達もいたもんですから、僕達大人組が、布団の中へと入れていきました。
「いやぁ……クリッタのあんな楽しそうな笑顔、久しぶりに見ましたクマ」
布団の中で、笑顔で寝息をたてているクリッタちゃんの笑顔を見つめながら、クマタンゴさんはその顔に笑顔をうかべています。
クリッタちゃんの布団の中ではモモノが一緒に寝ていまして、クリッタちゃんに寄り添いながら、布団の中から顔だけ出して寝ています。
僕とスアの前でも、パラナミオやリョータ、アルト・ムツキ・アルカちゃんが布団に入って笑顔で寝息をたてています。
向こうでは、クマンコさんが子供達の布団を直しています。
なんかいいですね……こうして大部屋で、他の家族のみんなと一緒にすごすのって。
子供達が寝入ったものですから、大人達は部屋の端に再度移動しまして、そこで少しお酒を飲みながらお話することにしました。
その話の中で、僕は、
「クマタンゴさん。僕達が帰ったらこの宿のことをお任せしてもよろしいですか?」
そうクマタンゴさんに言いました。
「この宿をですクマ?」
最初はびっくりした様子で、
「いやいや、そういうわけにはいかないクマ」
そう言われていたクマタンゴさんなんですけど、
「僕も店を経営していますので、何度もここにこれませんので、このあたりに詳しいクマタンゴさんにここのお世話をしてもらえると本当に助かるんですよ」
そう言いましたところ、
「そこまで言われるのでしたら……」
そう言って、ようやくこの話を受けてくださった次第なんです。
その後、クマタンゴさんとあれこれ相談していきまして……
・この宿は、コンビニおもてなしの傘下に入る。
・宿の1階にあった食堂と売店をコンビニおもてなしが営業する。
・宿そのものは、クマタンゴさんとクマンコさん、それにモモノで運営する。
そんなことを決めていきました。
ただ、クマンコさんは、今はクローコさんが店長を務めているコンビニおもてなし4号店の店員です。
とりあえず、そのかわりの人員が見つかるまでの間はコンビニおもてなし4号店で勤務してもらいまして、それまでの間は、とりあえずスアが経営していますおもてなし人材派遣会社からチュ木人形を派遣することにしています。
「あと、朝一番と、夕方最後の定期魔道船を、この宿まで周回させれば、少しは集客に貢献出来るかもね」
僕がそう言うと、クマタンゴさんは
「ていきまどうせん? それはなんですクマ?」
そう言いながらキョトンとしておられました。
それもそうですね。
何しろコンビニおもてなしが就航しています定期魔道船は、この世界の中でも数隻しか運行していないそうですから。
王都の近くでもう1隻就航しているらしいんですけど、僕はまだみたことがありません。
その魔導船と航路が被らないように、僕達はあえて王都方面に就航しないようにしているんです。
航路もですけど……定期魔道船を王都近隣へ就航させようとしたらですね、王都にある中央辺境局とかいうところに、それこそ百科事典ぐらいの分厚さのある書類を作成して提出し、その審査結果をまたないといけないんですよ。これも、先に就航している魔導船があるからこそのめんどくささってことらしいんです。
それを聞いて、王都方面への就航は諦めているんです。
まぁ、今の僕達は、本店のあります辺境都市ガタコンベを中心にして、コンビニおもてなしの支店のある都市をつないで、相互に発展していけるようにしないと、と、思っている次第です。
このチウヤは、辺境都市ガタコンベからは少々離れていますけれども、今回こうしてご縁が出来た訳ですし、この宿も昔のように復興していってくれたらな、と、思っている次第です。
そんな話を、酒を酌み交わしながら行っていった僕とクマタンゴさん。
スアは、いつの間にか僕の膝の上に座って寝息をたてていました。
そんなスアの頭を撫でながら、僕はクマタンゴさんと、クマンコさんと話を続けていきました。
◇◇
翌朝。
「では、今日はこれで失礼しますね」
僕は、クマタンゴさんとクリッタちゃん、モモノに手を振りながら、スアが召喚した転移ドアをくぐっていきました。
「またいつでもきてくだされクマ」
クマタンゴさんも笑顔で手を振っておられます。
「お父ちゃん、準備が出来たら帰ってくるクマよ」
クマンコさんも、笑顔で手を振っています。
パラナミオをはじめとした子供達も、笑顔で手を振り合っています。
そんな感じで、笑顔で手を振り合いながら、僕達はガタコンベへと戻っていきました。
クマンコさん達は、ここからもう1つの転移ドアをくぐって辺境都市ララコンベへと戻っていきました。
そんなクマンコさん達を見送っていたパラナミオ。
「パパ、とっても楽しかったです。また行きたいです」
笑顔でそう言いました。
その後方ではリョータ達も笑顔で頷いています。
そんなパラナミオ達に、僕は、
「そうだね、みんなでまた行ってみよう」
笑顔でそう言いました。
こうして、僕達の雪山旅行は終了しました。