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狩猟部門の増員要望 その3

 一次試験と言うべき狩りテストがこうして終了しました。

 次いでイエロは、
「では、次に各々の得意な攻撃を見せてもらうでござるよ」
 そう言いました。

 これを受けまして、受験者の皆さんは持参している武器を手にしていきました。
 すると、その一同の前にイエロが一歩踏み出しました。

「さ、誰からでもいいから、拙者に挑んでくるでござるよ」
 そう言いながら、両手で剣を構えていきました。

 イエロは二刀流です。
 左右の手に、僕の世界で言うところの日本刀のような剣を持ち、それで攻撃していくスタイルです。

 どうやらイエロは、自ら受験者の相手をしてその力量を見極めるつもりのようですね。

 それを受けまして
「では、ワシからいこう」
 そう言って、大柄な冒険者が歩みでました。

 履歴書に寄りますとオークの冒険者さんのようですね。

 オークの冒険者さんの武器は巨大な棍棒です。
 かなり大きな棍棒を両手で振りかぶってはそれを振り降ろしていくスタイルのようです。

 ……ですが

「では、始めるでござる」
 イエロがそう言った10秒後に勝負は決まっていました。

「うぉぉぉぉ!」
 開始の合図を受けて、オークの冒険者さんは棍棒を振り上げました。
 それに対しまして、イエロは一瞬にして間合いを詰めました。
「無駄な動きが多いでござるな」
「ぬ、ぬぅ!?」
 その会話の次の瞬間、イエロがヘッドバットをその顔面に見舞っていきました。
 これにより、オークの冒険者さんはおもいっきり後方に吹き飛んでいきました。
 これで、オークの冒険者さんは気絶してしまいました。

 この一線を皮切りにして、次々に受験者の皆さんがイエロに挑んでいきました。

 ですが

 イエロは、そのことごとくを秒殺していきました。
 えぇ、それはもう見事に一撃で。

 
 ただ

 そのことごとくが、頭突きか肘打ちか膝攻撃でして、最後までイエロに剣を使わせた受験者の方はいませんでした。

 ……しかし、よく考えればこの結果も当然といえば当然なわけです。

 イエロは、このパルマ大陸最大の武闘大会といわれている辺境都市バトコンベの大武闘大会の個人戦に2年連続で参加していまして、

 1年目は、予選を無敗で通過したものの仕事の都合で棄権。
 2年目は、予選で勝ち進んでいたものの、優勝経験者のバトコンベの領主ゲルターさんと引き分けて失格。

 とまぁ、2年連続で予選敗退しているとはいえ個人戦では今まで一度も負けたことがないんですよ。

 その結果を受けて、会場ではあちこちの傭兵団や貴族、バトコンベのゲルターさんからも直々に
「ぜひうちの騎士団に加わらないか?」
 そんな声をかけまくられていたほどだったのですが、
「拙者、タクラ店長に一宿一飯の恩がござるゆえ」
 そう言って、全てを断ってコンビニおもてなしに戻って来てくれたんですよね。

「いつか優勝して、バトコンベの闘技場のど真ん中でコンビニおもてなしの旗を振りまくってみせるでござる」

 イエロはそう言って笑っていた次第なんですよ。

◇◇

 そんなイエロの前に、完膚なきまでにたたき伏せられた受験者の皆さん。

 で

 そんな皆さんを前にしてイエロは腕組みしながらしばらく考え込んでいました。

 で、しばらく考えを巡らせた後、
「店長殿、よろしいでござるか?」
 そう、僕に声をかけてきました。
「うん、なんだい?」
「えぇ、今回の試験結果を受けてですね、拙者考えたでござるが……全員をバイト扱いとして、拙者とセーテンの元でしばらく預からせてもらうわけにはいかんでござろうか?」

 イエロによりますと、
「この者達は、事前の準備を怠る者、技量もまだまだ未熟な者なども多いでござるが……全員、いい目をしているでござる。鍛えればきっとものになると思うのでござるが……」
 とのことでした。

 で

 イエロがそう言うのでしたら、僕の答えは1つしかありません。
「じゃあ、そうしよう」
 僕は、そう言って頷きました。

 こうして、今回の受験者の皆さんは、とりあえずバイト扱いでコンビニおもてなしに加わることになりました。

◇◇

 バイトのみんなには、コンビニおもてなし本店の横にあります、おもてなし酒場の二階の宿屋でしばらく暮らしてもらうことにしました。

 まだ正式採用ではありませんので、あくまでも仮の住まいということです。

 朝は、おもてなし酒場の清掃をしてから、イエロ達とともに狩りに出かけていきます。
 この際、イエロやセーテン、グリアーナ達が、狩りの際の注意事項や、その日に出向いた地域の特徴などをしっかりと教えてあげているそうです。

 ただ

 その際の聞き方や、実際にそのアドバイスをしっかり覚えていたかどうかなど、そういった細かい事をイエロ達正社員組が事細かくチェックしている次第です。

 で

 その日の狩りが終了しますと、その結果をイエロがとりまとめて一覧表にしまして、それを僕の元に届けてくれます。

 その結果を判断基準にして、最後は僕とイエロの話合いで最終的に雇用するかどうかを決める段取りになっている次第です。

 ただ、今回バイト雇用した10人ですが、僕が所用でおもてなし酒場を訪れた際に出くわすと
「店長さん、こんにちは!」
 と、もれなく挨拶をしてくれます。

 これは僕だけじゃなく、コンビニおもてなしの店員の誰にあっても挨拶を欠かさないそうです。

 それはお客さんを前にしても同じでして、お昼ご飯をコンビニおもてなし本店へ取りに来た際にも、
「お客様いらっしゃいませ!」
 と、店内の皆さんに笑顔をで挨拶をしてくれるんです。

 イエロが、そうするように指示を出しているのかな、と思ったのですが
「いえ、拙者はそのような指示は出しておらぬでござるよ」
 そう言いました。

 要は、みんな自分の考えで、挨拶をしっかりしてくれているってことなんでしょう。

 コンビニおもてなしは客商売なわけです。
 イエロとセーテン達もそのことはしっかりと把握してくれていまして、森で街の人や他の冒険者の方々に出くわした際には
「こんにちはでござる。今日も良い天気でござるな」
 といった具合に、いつも挨拶を欠かしていないそうなんですよ。

 おかげで、
「コンビニおもてなしさんが雇っておられる冒険者の方は本当に礼儀正しいね」
「会ったらいっつも気持ちいい挨拶をしてくれるんだ」
 そんな声が後を絶たないんです。

 そうなんですよ……
 商会やお店が冒険者を雇った場合、その冒険者の方々の態度如何によってはその冒険者達を雇用しているお店の評判にまで関わってしまうんです。

 その点で言えば、イエロの見る目が確かだったってことなんでしょうね。
 何も言わなくても、そういった挨拶を自ら出来る方々ばかりだったわけですから。

 その日の夜、そんな一同を、イエロはおもてなし酒場に集めていました。
 セーテンやグリアーナ、オデン6世さんに加えて、僕も同席しています。
 ミミィはテトテ集落の手伝いがあるので、あちらに戻っています。
 
「とりあえず、研修は1ヶ月を予定しているでござる。その間に問題があった場合は、容赦なく首にするでござるゆえ、皆、気を引き締めて臨んで欲しいでござる」
 皆を前にしてそう言ったイエロ。
 その顔は真剣そのものだったのです。

 が

 次の瞬間、
「……とまぁ、堅苦しい挨拶はここまでにしてでござるな、ここからは歓迎会と言うことで無礼講でござる」
 そう言いながら、いきなり楽しそうに笑い始めました。

 その声を合図に、厨房のお手伝いにきてくださっていたラテスさんとヨーコさんが準備してくださっていたお酒や食べ物をみんなの前にどんどん運んでくれました。
 ここからは僕も料理を作る人になりますので、ラテスさんとヨーコさん側にまわります。

 で、それを受けた受験者の皆さんは
「ほ、本当ですか!」
「うわぁ、嬉しいですぅ!」
「イエロ隊長ばんざい!」
 口々にそんな声を上げながら、手に手に運ばれて来た酒や料理をとっていった次第です。

 真面目にやるときは真面目にやる。
 羽目を外すときは、しっかり外す。
 ……まぁ、イエロ達の場合羽目を外しすぎる気がしないでもないんですけど、そういった飲みニケーションが大事な時もやっぱりあるわけですよ、特に、こんな狩猟みたいな仕事ですとね。

「さぁ、みんな、しっかり飲んで食って、明日からまた頑張ろうでござる!」
「「「おー!」」」
 イエロの声にあわせて歓声があがっています。

 その楽しそうな様子を見ながら、僕はラテスさんとヨーコさんと共に追加の料理を作成していった次第です。

◇◇

 ……ちなみに、翌朝ですが……

「さぁ、皆の衆! 今朝も狩りに行くでござるよ!」
 元気満々なイエロやセーテン達の後方では、見るからに二日酔いで体調の悪そうなバイトのみんなの姿がありました。

 ……やっぱり、いきなりイエロ達と同じペースで飲むというのはねぇ……

 その方面でも、改めてイエロ達のことを見直した僕だったわけです、はい。

 あ、ちなみに、この日は採点は免除になっていた次第です。
 まぁ、これも武士の情けってやつなのかもしれませんね。

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