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第一の遭遇者

ルーチャの言ったことは冗談なのか。
 そんな疑問がギリーの頭に浮かびかかったころ
 「ウォル!」
 大きな水球が目の前に出来上がる。大きさはルーチャと変わらない。
 「ほら、言ったとおりでしょ?」
 どうだと言わんばかりに、少女は自信に満ちた表情を浮かべる。
 「あ、ああ。」
炎天下の中、声を出し続けた疲労に襲われながらもギリーが答えた。
「ふふん。師匠と呼んでくれてもいいんだよ?」
「それもなんだかなあ」
ギリーがすっと手を下ろし、生成された水が、全て落ちてばしゃりと音がする。
ルーチャが毎度毎度こういってたのは、そういう意味だったのか。感覚を忘れないうちにと声を発さずにやってみるが、魔法は出ない。やはり、魔法名を呼ばなければ魔法が現れてはくれなかった。

魔法を使って気づいたことがある。
まず、世界に応じて魔法の威力が変化すること。それはさっき作り出した大きな水球が証明してくれた。また、この世界では魔法で火、水を1度作り出してさえしまえば、多少歩きながらでも作り出した魔法を維持することが出来る。魔素の量によるものなのだろうか。
次にギリーの転生した姿はルーチャと同じ人間であろうということ。そうでないにしても、ルーチャとギリーの出せる魔法の規模が同じものになっていたため、魔女と人間のように差が見られない。


 
 そうこうしている二人に、聞き覚えのない声が聞こえた。
 「だ、誰だよ?!」
 岩の裏から聞こえた、やや高い声の元にはギリーと同じ、くすんだ緑の髪を持つ少年が立っていた。手には拳大のとがった石と本を持っている。長く伸びきった髪を後ろで結っており、着ている服は上質なもののように見える。しかし何年も着古しているのか、所々に痛みが見える。総合的に見れば「堕ちた貴族の子」といったところだろうか。

 「すまない。オレ達は怪しいものじゃないんだ」
 鞄を自身の後ろに置き、ギリーは答える。
 「ああ?岩の物陰で何度も何度も叫んでる奴のどこが怪しくないってんだ」
 ぶっきらぼうな言葉づかいではあるが、少年の言うとおりだ。魔法を使っていたところは見られていないのか。
 「で、どこから来た」
 何か疑われている様子だ。ここは素直に答えるべきか、嘘をつくべきか…

「異世界から。気づいたらボクら二人はここにいた」
ルーチャが正直に答える。
「ははは!気づいたらここにいましたって?チンチクリン、面白いこと言うな!」
「う、うるさい!何がチンチクリンだ!」
言い争っているが、少年の方が少し高い程度でルーチャとの差はたいして感じられない。団栗の背比べを目の当たりにしたギリーはじっとしている。

「異世界に来た」ということに対して、バーディ達のように、はいそうですかとはならない。というよりも、この反応の方が普通なのかもしれない。だが下手に嘘をついて信用されなくなるよりは正しい判断のように感じる。
ギリーとルーチャの水浸しになった地面を見ながら、少年は続ける。
「貴重な水をぶちまけて頭がやられちまったってやつか…まあ、遠路はるばるご苦労様ってこった」
 やれやれという素振りを見せながらも、こちらに歩いて近づいてくる。

 二人は身構える、が少年はギリーの脇をすり抜けていった。
「邪魔だ、どっか行ってろ」
少年は姿は岩の裏に隠れて見えなくなり、ガリガリと岩をひっかく音が聞こえ始めた。

少年が視界から消え、二人になったところでルーチャが口を開いた。
「どうする?」
絞った声でギリーに聞く。
 彼を放って探索を続けるか、少年とコンタクトを取るか…悩みどころだ。
 彼の口調は荒かったが、敵意があるようには見えなかった。もしそうであれば、さっき近づいた際、石で殴りつけられるチャンスは十分にあったはずだ。
「少し、話をしてみよう」
そうして、二人は音のする方へ歩いて行った。

岩の裏へと進んだ二人は、周囲の異様な光景に足を止めた。
辺り一面の岩にびっしりと傷が入っている。傷は幾つもの文字や数字、絵のように見える。
「これって…」
ルーチャが周囲を見渡し、ぽつりと呟く。その声を聞いた少年がこちらを向いた。
「どっか行けって言ったよな」
「でもどこへ行くかは僕らの自由だろう?ねえ、これ全部キミが書いたの?」
「ああ?かもな」
ルーチャが質問に、少年が適当な返事をする。無関心を決め込むつもりか。
「へえ。これ、ミュアドーラの方程式だよね。この世界でも使われてるんだ」
「ミュアドーラ?それを見つけたのはフォーメルだぞ」
少年が反射的に答えた。瞬間しまったと顔をゆがめた少年。無関心なていがすぐに崩れ去る。
「やっとこっちを見てくれたね」
ニヤリと笑いながら。ルーチャは言った。

ルーチャにとってはこの書かれた内容が分かるらしい。

オレたちの異世界移動において、移動の際に二人とも「その世界の言語」が理解できるようになっていることが分かった。今、こうして普通に話すことが出来ているのも、その不思議な力のお陰だ。

加えて「文字」に関しても同様なのだが、オレはそもそも「文字」というものに触れてこなかった。そのため、解読は基本ルーチャが行っている。

「で、目的はなんだ?」
話の主導権を握り返そうと少年は強気に言う。
「キミにこの世界についての話が聞きたいんだ。教えてくれないかい?」
ルーチャの問にあきれた様子で少年は返した。
「ああ、はいはい。異世界人ねえ」
全く信じる様子はない。証明でもできればいいのだが。
「なあ、魔法って知ってるか?」
ギリーの問に少年が答える。
「はあ?そんなの空想の産物だろ?」
しめた。
「師匠、よろしく頼む」
「はーい」
ルーチャが大げさに手を天に掲げたーーー

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