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136 おいちゃんの話

ゲンさんについて行くちびっ子同盟、心配そうに時々振り返りながら歩いている。
ゲンさんの顔も何となく硬い。
サーヤたちに声が届かないところまで来るとハクがゲンさんに話しかける。

『ねぇ、おいちゃ…ゲンさん』
『ん?今まで通りおいちゃんでいいぞ。みんなもな。それで?ハクどうした?』
おいちゃんは優しくみんなに言います。ハクが何を聞きたいかも分かっているけど、あえてハクが話しやすいようにしてくれます。

『さっきのサーヤどうしちゃったの~?』
ぴゅい『なんかね』
きゅい『へんだったの』
『悲しいでもないし』
『怒ってもないのに』
『なんかからっぽ?』
『なんかこわかった』
『なんかこわれそうだった』
ハクの言葉を皮切りに、我慢していた双子、フライとフルー、妖精トリオが思いを吐き出します。
おいちゃんは、
『そうだな。まずは座ろうか』
と、みんなに声をかけます。その顔はとても寂しげです。

みんなでおいちゃんの前に座ります。しばらく黙っていたおいちゃんが静かに話し出します。いつも元気に話してくれるおいちゃんが、こんな話し方をするのです。みんな大変なことなんだと小さいながらに分かりました。

『お前たちはサーヤのあの顔を見たの初めてだよな?』
『うん』
ぴゅいきゅい『『はじめて』』
『『ぼくたちまで悲しかったし』』
『『『こわかった』』』
サーヤが消えそうで……

『そうだよな。でもな、俺は初めてじゃないんだ』
気づいたら下を向いていたちびっ子同盟たちはその言葉に驚いて、ばっと、おいちゃんの顔を見ました。その顔は今にも泣きそうなのを我慢しているような顔でした。

『サーヤが初めてキヨさん…サーヤのおばあちゃんな。おばあちゃんに連れられて来た時、あんな顔していた。まだ二歳位なのに』
おいちゃんが思い出すのも辛いという顔で、でも話してくれます。
『サーヤのおばあちゃんに、「今日からこの子もよろしくね」と紹介された時、ほんとに驚いた。驚いているのが隠せているか不安で仕方なかったが、鋭い人だったからおそらくバレてたろうな』
苦しそうに笑って続けてくれます。

『見せられたサーヤはとても二歳とは思えない大きさで、まだゼロ歳だと言われた方がまだ信じられるくらいだった。何より辛かったのが、赤ん坊なのに表情がまるでなかったんだ。声も出さなかった』
能面のような顔…

『それってさっきのサーヤ~?』
ハクが聞きます。

『そうだ。でも、あれより酷かった。サーヤたちが見えなくなったあと、年甲斐もなく家に駆け込んで泣いたよ』
あの時のことは忘れやしない。
『おいちゃん』
ぴゅいきゅい『『でも、おいちゃん』』
『今は』
『サーヤと仲良し』
『うん』
『サーヤ』
『わらってる』
ちびっ子同盟たちが言います。

『そうだな。絶対仲良くなってサーヤに元気に話して笑ってもらおうって決めたからな』
少しおいちゃんの顔が笑顔になりました。

『元気になってもらいたいから医学書も読み漁って、大きくなって欲しいから食事も研究した。動物セラピーがいいと聞いたからサーヤが触れ合える動物も飼いだした』
とにかく思いつく限りのことを試した。

『それじゃ、サーヤのためにすーぱーひーろー?になったんだね』
ハクの言葉においちゃんが笑います。
『スーパーヒーローか、肝心な時に役に立たなかった間抜けなヒーローだけどな』
なんだか悲しいような、自分を責めるような声…

ぴゅいきゅい『『おいちゃん?』』
ちびっこたちも敏感に感じ取ります。

『まあ、そんな感じで遊び道具作ったりな、色々して仲良くなって、サーヤも上手く喋れないながらもよく笑うようになってくれてたんだ』
『今みたいな感じだね~』
ハクが言います。
『そうだな。楽しかったな。あの日、あの悪魔が来るまでは…』

みんな、なんの事か分かってビクッとなりました。

『あの日、俺はいなかったんだ。帰って来て、サーヤたちに会いに行ったら、あの悪魔がいて、俺が取り押さえて警察を呼んだんだ。だが後悔しかなかった。間に合わなかったんだ』
今にも泣き出しそうなおいちゃん

『おいちゃん…』
みんながおいちゃんに寄り添います。

『その時だよ、またサーヤの顔が出会った時の空っぽな顔になってしまったんだ。俺が引き取って育てたかったんだが、役所の連中…偉いやつな。そいつらに邪魔されて出来なくてな』
おいちゃんが泣いている。

『でも、でも今またサーヤ笑ってるよ~』
ぴゅいきゅい『『うん』』
『『とっても元気』』
『『『たのしそう』』』

わはは、と、弱々しいながらも、ようやくおいちゃんが笑った
『そうだな。すごく嬉しかったな』
そして、なんで二人を助けてくれなかったのだと、一時は呪った神に感謝した。それに
『お前たちのおかげだ。ありがとうな』
フゥやクゥ、双子やハク達のおかげでサーヤの笑顔が見れた。

『でも、さっきはなんでああなったんだろ~?』
ハクがさっきまで元気だったサーヤがなんでだろうと…

『あれは、迂闊だった。翡翠って言うのは緑色したキレイな石でな。サーヤの言っていたイメージ通りなのになぜ思いつかないのか、不思議に思ったんだ。サーヤのおばあちゃんがお守りだと言っていつも身につけていて、サーヤもその石が大好きだったんだ』
おいちゃんの顔が険しくなった。

『今その石どうしてるんだろ~?』
ぴゅいきゅい『『ないの?』』

『それなんだ。まったく思い出せないんだよ。それどころか、どうしてだかさっきまでまるで記憶から消されたように忘れていたんだ』
おいちゃんは眉間に皺を寄せて悩んでいる。

ぴゅいきゅい『『どういうこと?』』
ちびっこたちも不安な顔をする。

『分からん。でも重要なことのような気がするんだ』
どうしても気になる。

『バートさんは今日帰るって言ってたよね~?』
『ああ。だから後で話すつもりだ。主神様に伝えてもらわないとな』
『そうだね~』
ぴゅいきゅい『『それがいいね』』
ハクと双子が同意する。
そしてハクが

『ぼく、サーヤがあんな顔するのもう見たくないなぁ』
と言うと、
きゅい『ぼくも』
ぴゅい『わたちも』
『『ぼくたちだって』』
『『『いっしょだよ』』』
みんなが続きます。

『そうだな。その通りだな!よし!じゃあ、サーヤに元気でいてもらうためにも、まずは畑からやらないとな!みんな手伝い頼むぞ!』
不安を取り払うように、明るくおいちゃんが言うと

『分かったよ~』
ぴゅいきゅい『『がんばる!』』
『『やるぞ~』』
『『『お~!』』』
ちびっこたちも元気に応える。

『わはは!そういう時の掛け声教えてやる!』
『掛け声~?』
ぴゅいきゅい『『なに~?』』
『それはな~』こそこそ

『よし、それじゃ改めて』
『頑張るぞ~!』
ぴゅいきゅい『『えいえい』』
『『『『『『『お~!!』』』』』』』

みんなで畑を作りに向かうのでした。サーヤの笑顔のために。

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お読みいただきありがとうございますm(*_ _)m
おいちゃん、サーヤのために頑張ります!

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