13.当日(1)
開始早々、我がクラスの人気は予想を上回るほどの盛況ぶりを見せた。
なにしろ、男子の女装姿を女子が本気でコーディネートしたからだ。ガタイのいい生徒も美人に仕上げられている。
そんなクラスメイトを写真に撮ろうとやってくる他のクラスや外部の人で大人気だった。
「ドリンクの在庫あとどれくらいですか。いけそうか?」
裏で忙しそうに動き回る皆に声をかける。
「このままいくと無理そうかも!買い出し行けるんだっけ?」
「生徒会に話し合ってきます」
告げると急いで生徒会室まで向かった。
目の前まで来ると一度深呼吸して息を整える。
扉をノックすると中からすぐに声がした。
すぐに扉を横に開き、中に入る。
「どうかしました…ん?あれ、和美ちゃん!?」
俺はハッとして部屋を確認したが、会長一人しかいなかった。他のメンバーはどうしたんだ?
「あぁ…ドリンクの在庫が危なくてな…相談に…そういえば、他のメンバーは?」
「皆はそれぞれのクラスの応援に行ってもらってる。俺もさっきまではクラス行ってたけど、会長はここにいた方がいいって戻された。けど、それで正解だったな。こうして、尋ねてくる生徒がいるみたいだしな?」
「そ、そうか…」
なんか…緊張する…!
あれから時間は経ったが、会うと鮮明に思い出してしまう。
「ドリンクの在庫だったっけ。寄付金はまだ残ってるから自販機でどうにかなんねぇ?校外出るのは流石に許可できないし」
「いや、大丈夫だ。充分助かる」
「ん。じゃ、これだけあれば大丈夫?」
白い長封筒を渡されて中身を確認すると千円札が2枚入っていた。自販機のジュース…全部100円だろ、こんなに要らないような。
「一枚でいい」
「予備だから持ってて。必要なかったら返却して」
なるほどな、そういうことなら。素直にそれを受け取る。
戻る前に気になってることを口にする。
「…鷹也…何とも思わないのか」
「へ…あ、ヤバい」
「他には」
「すげぇ可愛い。まさか、その格好で会いに来てくれたのかって頭おかしくなりそうだったし。和美ちゃんが冷静だから俺も平静を装ったけど…」
女子が施したメイド姿のまま、ここに着ていたのだった。扉を開けた時、すぐに驚いた表情をして凝視していたのを思い出す。
「良かった…一目でいいから見てほしいと思ってたんだ」
「ふーん?なんか、それってヤラシイね。エッチなことされるかもって考えなかった?」
鷹也がニヤニヤしたがら、近づいてくる。それに合わせ後ずさりして背中が壁に当たり行き場を無くす。そんな俺を愛おしそうな目に変わり、壁に手をつけ俺を閉じ込めてしまう。
人生初の壁ドンだと考える頭も今はない。ドキドキしすぎて心臓が破裂しそうだ。
何かされると思い、ギュッと目を閉じる。
顎に手が添えられて上を向かされる。
「和美ちゃん、目開けて」
そろりと開けた視界に鷹也の顔が間近に見えた。そう捉えた一瞬で唇が塞がれる。
「ん…」
そのまま舌まで入ってきて、驚いて場所を考えて抵抗してみる。
「ダメ、逃げんな。本当ならこんな可愛い和美ちゃん誰にも見せたくない…俺だけ見てればいいんだ…」
「鷹也…」
熱を孕んだ瞳が俺を見つめて離さない。その瞳に見つめられると俺まで求めたくなってしまう。
再度、触れるだけのキスをする。何度も繰り返すうちに鷹也の手は俺を支えるように位置を変えていた。
「和美ちゃん…いいの?トロトロになっちゃうよ?」
「んえ?」
「可愛いなぁ、和美ちゃん。思考とんじゃってる」
このままじゃ、本当に危ない。そう思った時、鷹也の手が下に降りていきスカートの裾をめくり尻を撫でた。俺は一気に思考を取り戻して、鷹也を押し戻す。
「おっと…さすがにダメか」
「そ、そうじゃない!ここ…学校!それに使いを頼まれてたからクラスに戻らなかったら変に思われる!」
「あー、そっか。残念…それ、一度持って帰ったりする?」
「服か?洗濯するから…そうだが」
「ならいいや。戻っていいよ、怪しまれたら困るんじゃなかった?」
鷹也は一人納得したように頷くと、あっさり見送った。
嫌な予感がするが、クラスのために急いで自販機で買って教室に戻った。