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8.初デート(2)



 待ち合わせ場所に着くと鷹也が先に着いていた。しかし、知らない女性たちに囲まれて。

「鷹也」

 呼びかけると、困った顔をしていた鷹也が急に嬉しそうに笑顔になると、女性を押しのけてやってきた。

「良かった、早く来てくれて。あのまま囲まれてたら俺、そろそろ限界だった」

 鷹也の背後に見えた女性達は不思議そうにこちらを見ていた。待ち合わせ相手が男で安心しているのか、もしくは鷹也が笑顔を向けた相手が男だったからか…。正直、嫉妬したからすぐに声をかけたのだ。彼女らには指ひとつ触れてほしくないのだ。

「鷹也、いくところは決めているのか?」
「いや?和美ちゃんの行きたいとこ行こうよ。俺、和美ちゃんの好きなものを知りたいし」
「…楽しくないと思うけど、いいのか」
「何でよ、和美ちゃんと一緒なら何だって楽しいのに」
「そ、そうか…ミイラ展が今ちょうどやっていてな、それが気になってるんだ。博物館とか展示会とかが好きなんだ。面白そうなのを選んだんだが…」

 自分の好み全開で少し恥ずかしくなってきた。興味が無いと楽しめないはずだ。それでもミイラは人気の分野だ。

「へぇ、面白そうじゃん。俺もこういうの好き。古代文明とかはよく分かんないけど。俺も最近、見に行ったのがあって…何だっけ、魔女の展示だったっけ、魔女狩りが実在してたの衝撃的でさ」
「あぁ、分かる。俺も見に行った。良かった、嫌いじゃなくて。楽しめる方がたいくつはしないしな」

 鷹也が手をスッと差し出してきた。この手が何かを分からないほど鈍感ではない。鷹也は街中でも気にしないタイプか。差し出された手を俺は握る。

「デートはやっぱこれでしょ。でも、結構恥ずかしいな…周りに友だちだと思われるのは嫌だし思い切ったけど」
「俺も同じだ。さっきも少し嫉妬した。見せつけてやればいいと思っていた」
「和美ちゃん、俺に似てきたね」

 そう言って笑う鷹也に少し見とれた。そんなつもりは無かったが、独占欲が出てきて思考が緩くなったのは否めない。

「そうかもな。それも本望だ」

 握った手を強くし、目的地まで少し急ぐ。途中、ラーメン屋で昼を食べたり、ジュースを買ったり寄り道しながら向かった。

「和美ちゃん、写真撮ろうぜ」
「っ…いいぞ」

 写真写りが悪いからあまり撮ってこなかったが大丈夫だろうか。シャッター音が鳴り写真を撮り終えた鷹也が確認し、俺にも見せてくれた。

「和美ちゃん、半目!やべぇ、ウケる。これ、待ち受けにする」
「か、勘弁してくれ」

 羞恥でいたたまれない…。ケータイを操作し、ちゃっかり待ち受けにしたのを見せてくれた。それ、誰かに見られたらどうするんだ。
 ネタ写真でしかない。

「っ…人に見せるのだけはやめてくれ…」

 なんだかんだ言いながら許してしまうんだから、弱くなったものだ。繋いだだけの手がなんだか心もとない。さっきからずっと我慢していたものが弾けてしまいそうだ。

「鷹也」
「んー?どした」
「ミイラ展は期間がまだある、今日じゃなくてもいい。…静かなところに行かないか」

 言った先からジワジワと腹の底から熱くなってくる。慣れないことは言うべきではないのだ。

「へぇ!あは…まじか、和美ちゃん最高!和美ちゃんがそういうなら俺は別にいいよ。和美ちゃんの行きたいところに行こうって言ったしね。なら、俺いいとこ知ってるよ。何も言わずに着いてきてよ」

 ニヤニヤしながら俺の腕を鷹也が組み、引っ張る。俺には見当もつかないから鷹也に任せたがその場所に着いてから少し後悔したのだ。
 白い壁の建物だが、城のようで外に掲げる看板に「泊まり」や「ご休憩」などの文字が分かる。ここは、紛れもなくそういう場所だ。

「こ、ここじゃなくても、いいんじゃないのか…」

 変な汗が流れた。

「だからだよ。和美ちゃんの初体験、全部俺は欲しいんだよ。まぁ俺もラブホは初めてだから同じだなー」

 どうも、鷹也のテンションがおかしくなっている。俺の反応を見て楽しんでいるのがよく分かる。ここで何をするのか、分からない俺でもない。

「それなら…行っても、いい」

 それに親のいる家では無理だしな…。言い訳がましい理由をつけなければ、どうも恥ずかしくていけない。

「よし、覚悟決めたな?行くか!」

 肩に腕を回して中に入っていった。
 初めてと言うわりには戸惑うことなく、部屋を決めてエレベーターに乗り込んだ。

「ラブホっぽいピンクの部屋にしたかったけど、埋まってた」

 不満そうに言う鷹也がおかしくて笑いが漏れる。

「なんだよ」
「や、悪い。何でそんな残念そうなのかと思って。俺はこういう場所自体が初めてだからどこだっていいと思ったが」
「あぁ、そういう…んー、雰囲気あった方がエッチな気分になるかなって思って…和美ちゃん、今どんな感じ?」

 鷹也らしいというか。
 そんなに心配しなくても…すでに俺は色々危なくなっている。下半身に熱が集まり始めていることにも気づいている。

「それは、これから確かめてみたらいいんじゃないのか」

 グイッと腰を引き寄せて頬に軽くキスし、ちょうど止まったエレベーターから先に降りる。鷹也がすぐに追いかけてくる。

「和美ちゃん、やっぱり最高だわ。興奮してきた」

 部屋に入るなり、抱きついてきて激しくキスを求めてきてそれに応えながらも、シャワーを先にしないかと宥める。

「んー、じゃ、和美ちゃん先にいいよ」

 引き止められる前に急いで浴室に向かった。


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