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秋の収穫祭 その7

 スアの薬と回復魔法、それに優しい気遣いのおかげでエネルギー充填120パーセントになった僕は、波動砲でもぶっぱなせそうな勢いで出店の方へ向かって駆け出していきました。

 オザリーナ温泉郷の出店はですね、温泉郷の中央通りにずらっと軒を連ねています。
 お店の出入り口を塞がないように配慮しながら、その周囲を固めるような格好でたくさんの出店が出ていまして、あちこちから客引きをする元気な声が聞こえています。

 実は、この出店……最初はかなり心配されてたんです。

 と、いいますのも、出店を希望なさった方々の多くがですね
「どうせ出店するのならララコンベに出したい」
 そう申し出てこられて、オザリーナ温泉郷への出店を渋られたんです。

 オザリーナ温泉郷に出店を出せば、役場に近い好立地の場所に出店出来ることを案内させてもらっても、少々外れでもいいからララコンベに出店したいという方がすごく多かったんですよね。

 ララコンベの出店の受付がいっぱいになってしまい、それでも出店希望者が耐えなかったもんですから、急遽街のはずれに出店街を増築する計画が動き出した時にも、オザリーナ温泉郷の方は中央に近い好立地がかなり残っていたんです。

 ……ですが

 ここで助力してくださったのが、オザリーナ温泉郷にお店を構えておられます皆様でした。

 その多くの方々が、ララコンベからわざわざオザリーナ温泉郷まで出向いてくださってお店を構えてくださっている皆さんです。
 これは、オザリーナ温泉郷が出来た際に、僕がドンタコスゥコに
「よかったら支店を出してもらえないかな」
 って、相談したのがきっかけなんですよね。

 と、いいますのも、このオザリーナ温泉郷は最初色々問題が山積だったもんですから、そのせいでお店の数が泣きたくなるくらい少なかったんです。
 オザリーナからそのことで相談を受けた僕がドンタコスゥコに相談をしたわけなんですけど……

 これを受けてドンタコスゥコが知り合いの商店や商会に声をかけまくってくれまして、そのおかげでかなりの数のお店がオザリーナ温泉郷にお店を構えてくれたんです。

 で

 その皆さんがですね

「おいおい、オザリーナちゃんがなんか困っているらしいぞ?」
「なんでも、今度の秋の収穫祭の出店が少ないらしい」
「そりゃいけねぇ。いつもすごく世話になってるんだ、こんな時にこそ恩を返さないとな」
 
 口々にそんな事を言われながら、ナカンコンベにあります皆さんのお店の本店や取引のあるお店にまで幅広く声をかけてくださいまして……

 その結果、秋の収穫祭の初日を迎えています、ここオザリーナ温泉郷は、多くの出店であふれかえっていたんです。

 さすがに、予定区画全部は埋まりませんでした。
 それでも、予定区画の9割近くが埋まっていましたので、大健闘と言っても過言ではないと思います。

 これも、オザリーナが毎日朝早くから夜遅くまで、オザリーナ温泉郷の中を駆け回ってみんなのために頑張り続けていたからこそだと思うんですよね。
 このオザリーナ温泉郷が出来てからというもの、オザリーナは文字通り寝る間を惜しんで仕事に没頭していますから。

 出店に出向いた僕の前に、そんなオザリーナの姿がありました。
「よかった……こんなにいっぱい出店が……」
 出店と、行き交うお客様でいっぱいの通りを見つめながら、オザリーナは目元にハンカチをあてていました。

 なんか、その姿を見ていると僕まで胸がいっぱいになってしまった次第です。

◇◇

 そんな中、コンビニおもてなしの出店にはかなりのお客さんが殺到していました。

 今回の出店では、いつものお弁当やサンドイッチといった食べ物を少なめにして、豚汁やけんちん汁といったあったかい汁物の販売や、串焼きの実演販売などを多めに行っています。
 弁当やサンドイッチは、コンビニおもてなし6号店と販売品目がおもいっきり被ってしまいますからね。
 そこを配慮しまして、

 コンビニおもてなしでは、通常の商品を
 出店では、実演販売を

 そんな感じで差別化をはかって、両方にお客さんがご来店くださるよう仕向けてみたのですが……目の前の盛況ぶりをみるにつけ、どうやら作戦はうまくいっているようですね。

 僕が元いた世界でコンビニおもてなしを営業していた頃は、近所の神社で秋祭りがある際には、お店の前にテントを張って、そこで店内で製造したホットデリカを販売していたものです。

 フランクドッグや唐揚げ、コロッケなんかを並べて売っていたんですけど、これが結構好評だったんですよ。

 その頃のことを少し思い出しながら、僕はお客さんでいっぱいになっているコンビニおもてなしの出店を少し離れた場所から眺めていました。

◇◇

 秋の収穫祭は、そんな感じでララコンベとオザリーナ温泉郷ともに好調な出足になっていました。

 特にララコンベの方は、今まで誠実に温泉郷としての営業を続けてきた成果が一気に実った感じといいますか、前回ガタコンベで開催したお祭の際よりも多くのお客さんが殺到している感じです。
 
 名ばかりとはいえ、現在ガタコンベの領主代行を務めている僕としましては、次回ガタコンベが祭りを主催する際には何か手を考えないとな、と、ちょっと真面目に思った次第です。

 オザリーナ温泉郷も、ララコンベほどではありませんが、当初想定していた来客者の数を上回っているようです。
 こちらは、温泉郷が出来て間がありませんし、今回はこれでよしとしないといけないかもしれませんね。

 そういえば、このオザリーナ温泉郷なのですが引っ越して来られる方も増えてきていまして、近いうちに
『オザリーナ村』
 として、王都にあります中央辺境局に正式に認可されることになりそうなんです。

 村になりますと、王都から補助金を支給されたりしますからね、
「こ、これで温泉郷の中を今以上に整備することが出来ますわ」
 そう行って、オザリーナも感極まっていた次第です。

 そのお知らせが、この秋の収穫祭の最中に届いたのもナイスタイミングだったかもしれません。

 王都の中央辺境局から、村昇格の内諾書を届けにきた役人達が
「……おいおい、ここってこんなに賑わっているのか?」
「聞いていた以上の盛況ぶりだな」
 といった感じで、びっくりしていましたからね。

 とにもかくにも、今は秋の収穫祭に全力投球しなければならないわけですけど、この話もいい方向に進んでいってほしいもんです。

 ちなみに、コンビニおもてなしの出店では、我が家の子供達も大活躍しています。

 オザリーナ温泉郷の出店は、パラナミオをリーダーにして、アルトとムツキ
 ララコンベの出店は、リョータとアルカちゃん

 みんながですね、
「いらっしゃいませ!」
「ようこそコンビニおもてなしの出店に!」
「ぜひ見ていってほしいアル!」
「寄ってってくださいまし!」
「サービスするにゃしぃ」
 笑顔で元気な声をあげています。

 そのおかげもあってか、出店はどちらも大盛況です。

 ちなみに、ララコンベの出店の方は、ルアとオデン6世さんの娘のビニーも手伝ってくれています。
 亜人の子供なので成長の早いビニーは、すでにリョータやアルカちゃんと遜色ない程に成長しているんですけど、
「……リョータくん、アルカとずいぶん仲良いのね?」
「うん、アルカちゃんと仲良しですよ」
「……わ、私とも少しは仲良くしてよね」
「はい? ビニーも大切なお友達ですよ?」
「そ、そう……ならいいのよ、フン」
 ……なんか、リョータとビニーがそんな会話を交わしているのを時折見かけたんですけど……

◇◇

 そんな子供達の頑張りもありまして、出店の商品が売り切れになるケースが頻発していたんですけど、

「まったくもう、アタシがいないと何にも出来ないのねアンタ達ってば」
 その度に、呼んでもいないのにハニワ馬のヴィヴィランテスがナイス過ぎるタイミングで現れて、補充商品の運搬係をかって出てくれたんです。
 そのおかげで、出店の品切れもすぐに解消出来た次第です。

 そんな大活躍のヴィヴィランテスなのですが、補充に出向いた出店で
「あ、お馬さん!」
「かわいー!」
「乗りたい!」
 あっという間に子供達のそんな声に囲まれていた次第です。

 で、

 「ちょっとアンタ達、アタシは乗馬サービスはやってないのよ。邪魔よどきなさい。どきなさいって言ってるでしょ! 一回だけのせてあげるから、それが済んだらどきなさいって言ってるのよ!」
 ヴィヴィランテスってば、そんな事を口にしながら、群がっている子供達全員を背に乗せてあげていたんです。

 ホント、ヴィヴィランテス、お前ってヤツは……

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