08 そこまで足もと見るかなぁ ?
ビリーさんの店で村から持ち込んだ商品を売り込みに来ているのだけど店主の機嫌を損ねてしまったようね。
だけれど私を奴隷として差し出せという要望を安易に快諾されても困ってしまうのだけど…
「はい、もちろん存じてます。ビリーさんには心から感謝してます ! 」
村長は深々と頭を下げた。しかし店主の機嫌はなおらない。
それでも村長は随分となだめたりおだてたりしてなんとか話を進めるところまでこぎ着けた。スゴいなあ。頑張るなあ。私には苦い顔と愛想笑いをするぐらいしかできないよ。
そういえば村長には交渉術というスキルがついていた。このスキルわ生かしてもっと自分が得するように持っていけばいいのに…
きっと人が良いからズルい人の言いなりになっちゃうのでしょうね。
「分かってるなら良いのだがね。仕方がないから見てやるよ ! ほらほら、早く倉庫に並べるんだ !!」
「はい、承知しました !」
やっぱり村長たちは肩身の狭い思いをしているようね。どうも町の人達や町の近くの村には優遇して、この村が遠く離れていてとても田舎の村なのが原因で商品も買い叩かれているみたい。
聞くところによると、ネバーフルの街まではスゴく遠くてとても行けないんだって、何でもコンテの町からネバーフルの街まではこの町までの距離の数倍らしい。
村からは普通に荷馬車で片道が1週間近くかかるというのだ。だからこことジョエルさんの店とギルドだけが数少ない取り引き相手なのだろう。
結局全ての積み荷をビリーさんの言い値で売却した。村の人達が頑張って苦労して紡いだ糸や布を物凄く安く買い叩かれてしまったようね。
村人たちやジョエルさんのように真面目な人が苦労してビリーさんのように資金があって根性の悪い人が儲けるのは何だか納得いかないわね。
やっぱり権力と資金を持った金持ちばかりが得をするんだよね。元の世界でも異世界でも同じで世の中はこういう風にできているのかな ?
だけど村人達にはどうにもできなかった。私だってそうだ。
精々荷物を運ぶのを手伝うくらいしか役に立てなかったのよね。
それから必要な品物を購入した。村人の食料や生活用品それに野菜の種や苗などだ。
さすがに買うときの値段は高くなったりしないみたいね。
後味が悪いけど買い物をして店を出た。
「いくら大きな商店とはいえあのような対応には納得できませんわ !」
「だけど…… 苦しい生活だとしても私たちがどうにか生き延び、暮らしていくには頭を下げるしか他に方法が無いんだよ」
……何て返して良いのか分からない。確かにそうだ。それでも買い取ってもらって得たお金で買い物をした。
全てを奪われる訳ではなくて、ギリギリまで搾りとられてる感じなのかな ? 生かさず殺さずか…… そういうところまで計算されてそうだ。アイツの方が計算高いのだろう。
こんなことは許せない。やっぱり納得いかない。どうにか打開したいわね ! 良い方法は無いかしら ?
さて、ビリーズ商店を出て次はギルドにやって来た。
私の登録と素材を売る為にね !
ギルドも古びた建物の一室でずいぶんサビれていて、受付のおじさんが一人と奥にもう一人いるだけだった。
「これでも朝晩は何人も出入りするんだ !」
と、受付のフィルダーさんは言うが、言い訳にしか聞こえなかったわね。
私の登録は紙一枚で簡単にできた。
Fランクからのスタートでギルドカードを受け取り登録は終了した。倒した魔物は自動的に記載される便利な機能付きでこの世界のどこのギルドでも対応してもらえるというのだからありがたいものね。
しかし問題は素材の買い取りだった。
困ったことにフィルダーさんもビリーズ商店と同様で高飛車な態度なのだ。
おまけにレッドベア2体とウルフ、ボア、オークの肉と素材。更に前述の魔物の魔石とメイジゴブリンとコボルトの魔石で15万ギル(日本円で約15万円)の査定だったのだ。
「レッドベア1体だけでもそれ以上はするんじゃないですか ?」
ギルドに入る前には村長たちは「レッドベア一体で100万ギルは下らないよな」なんてウキウキで話していたのに10分の1以下なのよね。こんな安値では村長もかなり抵抗した。しかし……
「残念たがよー、これらの魔物は今な、余ってんだよ。この金額で無理ならどうぞお持ち帰ってくれや ! だけどお前らの村までは遠いからなあ~ ! 持って帰るのも大変だろ ? しゃあねえからもう1万乗せてやるからそれでどうだ ?」
「ううっ。それは…… うーん、仕方がないか⤵⤵⤵ それでお願いし… 」
#### シャキーーーン ####
(この瞬間、私の野生の勘が働いた。研ぎ澄まされた相場勘が全力でダメだと訴えている。おかしいよ、これはダメなやつだわ !!! この人達の悪質なやり方のせいで村人達は弱味をつかれて貧しい暮らしを強いられているんだ ! 私には分かった。彼らをガリガリに痩せさせたのはコイツらなんだ ! こんなのって絶対に許せないわ !!)
「お待ちなさい、村長 ! そうか~、アンタらの魂胆は分かったわよ ! 神様が許してもこのアイリ様が許さないからね ! 遠くから何日もかけてやって来たアルテ村の人たちが持って帰ることができない事につけ込んで、こんなヒドい対応してるのね ! 絶対に許せない。もう帰りましょう」
私はテーブルの上に並べてあった素材を抱えた。
「帰りましょ ! ほら、皆。荷物を運ぶわよ ! 」
「突然何を言いやがる、小娘が !! そんなことをしてただで済むと思うなよ !」
「それはワタクシのセリフでしてよ ! ワタクシは鏡のように。善なるものには善を…… 悪なるものには悪を見舞うわ ! 覚えておきなさい !」
「けっ アイリだったな ! それだけの事を言ったんだ、忘れはせんぞ。泣いて許しを乞うのは間違いなくお前らの方だぜ !」
「ええっ ? すみません、すみません。大丈夫かアイリ ?」
「村長 ! 謝ることなんかねーぞ。コイツらは散々俺達から搾り取ったんだからよー、一昨日来やがれってんだ !!」
(おお~、こういう時はレイは頼りになるわね !)
「本当にすみません !」
「失礼します」
(クラウと村長はどこまでも冷静だわ。大人ね !)
こうして私がレッドベア1体を抱えてギルドを2往復し、さっさと出て行ってしまうと、皆も渋々ついて退出してきた。そして部屋を出てしばらく行くとアイテムボックスに全部収納した。
「この素材は私が何とかするから任せてくれないかな ?」
「ソイツらはほとんどオマエ一人で倒したようなもんだし、当然任せても良いだろう、なあ村長 !?」
「そうだよね !」
レイとクラウは同意してくれるようだ。
「ああ、レイの言う通り魔物はアイリのモノだ。好きにしてもらって構わないよ。全てアイリに任せよう ! しかし、それより腹が減ったなぁ、夕食にしようか ?」
「はい」「おう !」「やった~ !」
移動して、どこへ行くのかな ? 日も落ちてお腹も空いたから今から宿に行くのかな ? それともどこかの店で食事してから行くのかな ? 異世界の屋台かぁ ? 楽しみだなぁ !
村長たちの後をついて歩いて行くと美味しそうなお店や屋台を横目に素通りしてしまい、とうとう町の外まで出てしまった。
「あれれれれ ? どこへ行くの ? ご飯は ?」
「どこかそこいらで焚き火でもして腹に入れるか ?」
「町で食べるんじゃないの~~⤵⤵⤵⤵?」
「そんな余裕が無いのはアイリも知ってるでしょ ?」
(年下のクラウに諭されてしまった。うああ~~ そうかあ、そうだよね~ ! 私たちの村は貧乏なんだ。屋台のお肉なんて夢のまた夢だよね、あ~美味しそうだったなぁ !)
「そうだね、残念ながら私もほとんど手持ちが無いんだよ」
「ああああ~ ! 私のせいで素材が売れなかったからだ~ !!」
「そんなこと無いさ ! 売れたとしても同じだったよ。私たちはそのような贅沢をする余裕なんて無いんだよ !」