【web版】異世界コンビニおもてなし繁盛記

　ヤルメキスの妊娠が発覚したわけですが……

　ここで僕はいろんな事に思い当たった次第です。
　いえね、ヤルメキスは蛙人（フロッグピープル）なわけです。
　つまり、蛙です。

　僕が元いた世界の蛙のことを思い浮かべますと……透明な長い物体の中に卵が出来たり、川辺の木に大量に卵を産み付けたりと……まぁ、そういった光景しか浮かんでこないわけです。

　……ヤルメキスも、これからそんな風に卵を……

　そんなことをついつい考えてしまっていたわけです、はい。

　そのことをスアに聞いてみましたところ
「……蛙人の妊娠は、人種族と同じ、よ……」
　との説明を受けまして、ちょっと安心した次第だったわけです、はい。

　ちなみに、蛙人の妊娠出産の特徴といたしまして……

・妊娠してから出産までは1ヶ月程度
・基本的に多産で、一度に3～10人出産する

　といったことが上げられるそうです。

　ただし、生まれた子供達が全員成人するまで成長出来ることはまずないそうなんです。
　未熟児で生まれてきたりする赤ちゃんも多く、そのため……
　なんて事も多いため、生まれてきた子供の半分くらいが成長出来れば御の字と言われているんだとか。

　これは、一般に流通している野菜の大半が、僕の世界の野菜に比べて痩せているため栄養が不足気味っていうのが影響しているのかもしれません。

　ですが

　この件に関しましては、まったく心配がございません。
　えぇ、何しろヤルメキスには僕達コンビニおもてなしがついていますからね。

　自ら二度の出産を経験したスアが、その経験を糧にしてあれこれそれとばかりに育児用の製品を考案・製造してくれているのですが、その中に母胎のための栄養食などもあるわけです。

　研究熱心なスアは、リョータを身籠もった際に、自らの体調の管理を欠かしませんでした。
　その際、お腹の赤ちゃんが栄養を必要とすること、それにともなって母胎の栄養がごっそりもっていかれることなどを把握し、それに対処するべく、飲むだけで栄養が補充出来る母胎用栄養ドリンクや、少量で栄養補給出来る栄養食品などを開発した次第です。
　これらの商品は、スアが自分で使用した上で商品化していますので、品質は折り紙付きです。

　まぁ、この栄養食品の方なのですが、味を僕がコーディネートさせてもらいまして、食べやすいようにイルチーゴ味やメルロン味なんかを生成しているのですが……
「あの栄養食品の味が忘れられなくて」　
「これ、ついつい食べちゃうの」
　と、いった感じでですね、出産を終えた後も、このスア印の栄養食品を末永く愛用くださる方が少なくありませんで……ま、まぁ、高栄要素低カロリーに仕上げていますので、太ってしまうといった懸念は少なめではあるものの、中にはかなり過剰に摂取なさる方もおられまして……ははは

　こういった母体用栄養食品に関しては、おもてなし診療所での診療と説明・指導を受けることを推奨しています。
　これに関しましては、あえて無料で行っていますので、結構多くの方が利用してくれています。
　無料と言いましても、おもてなし診療所のテリブルアにただ働きしてもらっているわけではありません。

　おもてなし診療所はガタコンベとナカンコンベにあるのですが、その両辺境都市の役場から補助金を支払ってもらっている次第です。
　妊娠しているお母さんを金銭的に援助し、出産をサポートさせていただくためってことなわけです。

　僕発案で、まずはガタコンベとナカンコンベで始まったこのサービスですが、亜人種族の方々には大好評でして、その結果受診する人が増加し、出生率や、出産後の赤ちゃんの生存率が目に見えて向上しているんだとか。
　ただ、そのせいでテリブルアから
「最近、患者が多すぎなのよ。そろそろ誰か助手を雇わせてほしいわ」
　と、言われてもいますので、今度コンビニおもてなし3号店のあります魔法使いの森あたりで、治癒魔法・医療行為の知識に長けている魔法使いを募集してみようと思っている次第です。

◇◇

　とまぁ、そんなわけで……
　ヤルメキスの出産に関するバックアップ隊背は万全ってなわけです、はい。

　妊娠から1ヶ月ほどで出産に至るとのことですが、その後しばらく育児も行う必要があるでしょう。　
　そう考えると、ヤルメキスが半年くらいは不在になると想定しておいた方が良さそうですね。

　すでに、コンビニおもてなしの主力商品のひとつになっているヤルメキススイーツなだけに、ヤルメキス不在の間の生産体制を検討しておかないと、とも考えている次第です。
　一応、ヤルメキスが製造していた商品は、すべて僕が指導して教えた物ですので全く作れなくなるということはありません。
　なので、その作成を手伝ってくれる人を新たに雇うべきかな、と思っている次第です。

　ヤルメキススイーツのメイン調理師は、ヤルメキスの親友のケロリンにお願いして、その部下としてアルカちゃんと、新しく雇用する人に働いてもらい、そのバックアップを僕が行えばどうにかなるかな、と考えている次第です。

　そんな中……意外な商品が出来上がりました。

　いえね……スア製の母胎用栄養補助食品を早速使用し始めたヤルメキスなのですが
「ん～、こ、こ、こ、個人的にはこれの方がこ、こ、こ、好みでごじゃりまする」
　と言って、カップケーキ風にアレンジした母胎用栄養補助食品を、さらっと作り出したのですが……

「ヤルちゃま！　これはいけるとね、おばちゃま思うの、むしろ激しく販売するべきだと、おばちゃま思うのよね」
　という、ヤルメキスの義理のおばあさんのオルモーリのおばちゃまの猛プッシュの結果、このカップケーキ風母胎用栄養補助食品が、新たにヤルメキススイーツに加わった次第です。

　で

　これが意外といいますか、かなりの人気商品になっているんですよね。
　ただ、これに関しては
「ヤルメキススイーツの調理師さんがこれを食べて子供が出来た」
　という、本末転倒した噂が流れてですね、その恩恵にあずかろうとしている新婚のママさん達に熱烈に歓迎されたっていう側面がございまして……
　ちなみに、最近魔法使いの女性達の嫁入りが頻繁になっているテトテ集落で、このカップケーキの売り上げが特に顕著になっていることも申し添えさせていただいておきます、はい。

　そんな副産物もありながら……
　ヤルメキスによるケロリンとアルカちゃんへの引き継ぎなども問題なく行われていきました。

　その間に、おもてなし診療所とヤルメキススイーツの求人もあちこちの商店街組合にだしている次第です。
　それなりの応募はあったのですが、なかなか条件にあった人材に出会えていない感じでして、こちらは今後に期待ってところでしょうか……

　そして、あっという間に月日は流れまして……

「で、で、で、では店長さん、みなさん、し、し、し、しばらくお休みをいただきますでごじゃりまする」
　今日の仕事を終えたヤルメキスが、そう言って頭を下げました。
　そんなヤルメキスのお腹は、かなり大きくなっています。
　小柄なヤルメキスだけに、その大きさがさらに強調されている感じですね。

「お店の事は心配しないで、元気な赤ちゃんを産んでね」
　僕は、そんなヤルメキスに笑顔でそう言いました。
　パラナミオ達からの花束贈呈もありまして、ヤルメキスってば、最後には号泣してたんですよね。

　その後、旦那さんのパラランサくんと、オルモーリのおばちゃまに付き添われてヤルメキスは家に帰っていきました。
　
　まぁ、コンビニおもてなし本店から徒歩数分のところですし、ケロリンも同居していますので、連絡を取ろうと思えば容易なわけですが、あまり心配をかけたくありませんので、そんなに連絡する気はありませんけどね。

　とにもかくにも、ヤルメキスからの吉報を待ちつつ、コンビニおもてなしの営業も頑張らないと、と、思っている次第です、はい。