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こんにちわ赤ちゃんでごじゃりまするぅ その1

 そんなわけで、コンビニおもてなし本店に所属していますヤルメキスの妊娠が発表となりました。

 その診断をしたのがおもてなし診療所を担当しているテリブルアだったのですが、
「蛙人の妊娠を診断したのなんてはじめてだわ」
 そう言って笑っていたそうです。

 ……しかし、あれですね。

 ヤルメキスとは、僕がまだこの世界に来て間もない頃からの長い付き合いです。

 ルアやイエロ、スア達の協力を得ながらどうにかこの世界でコンビニおもてなしを開店することが出来ていた僕。
 そんな中、辺境都市連合が春に開催しています花祭りに参加したのですが、その際、その裏通りで出店を出していたヤルメキスと出会ったのが最初でした。
 当時超貧乏だったヤルメキスは、いい材料を入手することが出来なかったため、ぼそぼそとしたカップケーキを作って販売していたのですが、味以上に、その技法に光るものを感じた僕は、ヤルメキスをコンビニおもてなしにスカウトしまして、そのカップケーキ作りを指導したりしていきました。
 スイーツ作成の才能があったヤルメキスは、僕の指導を受けてどんどん成長していきまして、あっという間に『ヤルメキススイーツ』を作り上げていったのです。

 今は、ヤルメキスの親友のケロリンと、僕の息子リョータの将来のお嫁さんのアルカちゃんがその部下として働いているのですが、そんな2人を、たどたどしくも親切で丁寧に指導しているヤルメキス。
 その姿は、最初の頃に比べて本当に落ち着きが出てきていて、頼もしい存在なわけです、はい。

「そうか、ヤルメキスも妊娠かぁ」
「は、は、は、はい、そうでごじゃりまして……」
 笑顔の僕の前で、ヤルメキスってば恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていました。
 
 ヤルメキスの旦那さんのパラランサくんは、ルア工房の副店長として日々ルアに鍛え上げられています。
 ヤルメキスは、ヤルメキススイーツの責任者として日々その製造と新商品の開発を行っています。

 そのため、当分の間は子供は出来ないんじゃないかと思ったりしていたのですが……やはり、やることはやっていたわけですね、2人とも。

 少し下世話なことに思いをはせながらも、僕はヤルメキスを祝福していた次第です。

 ちなみに、ヤルメキスは蛙人(フロッグピープル)族です。
 基本的に、僕のような人種族とほぼ同じ姿形をしているヤルメキスですが、やや大きめの口と、その口からチロチロと伸びる舌が、蛙としての特徴を有している次第です。

 これが、人蛙(ワーフロッグ)族になりますと、様子が少々異なります。
 人種族と似た姿形をしてはいるのですが、その見た目は蛙そのものなのです。

 このように、亜人種族と言われている人々の中にも、その形態的特徴によりまして2種類の呼び名が存在しています。
 同じ亜人種族なのになんでこんな差があるのかという事に関しましては、今も辺境都市ギアナコンベというところにあります研究施設が研究を続けているそうなのですが、まだ完全な解明にはいたっていないんだとか。
 
 で、そんな蛙人なヤルメキスは、妊娠の仕方も人種族と同じでした。
 言われて、改めてそのお腹のあたりへ視線を向けますと、確かに少しふっくらとしているように感じます。

 あまりじろじろ見続けていたらセクハラになってしまいますので、その視線をほどほどで切り上げた僕。
「ヤルメキス、何か必要な物があったら遠慮無く言ってよ。コンビニおもてなしが全力でバックアップするからね」
  笑顔でそう言う僕に、ヤルメキスも
「は、は、は、はいぃ、あ、あ、あ、ありがとうごじゃりまするぅ」
 そう言うや否や、その場でジャンプして、そのまま土下座しようとしたのですが、その行動を予期していた僕はジャンプしたヤルメキスを抱きかかえて、土下座を阻止した次第です。

 万が一、ということがあってはいけません。
 蛙としての跳躍力を利用してその場でジャンプしているヤルメキスですからね、190センチを超える身長の僕の頭の上まで飛び上がっていただけに、そのまま土下座させるわけにはいきません。
「や、ヤルメキス……せめて子供が生まれるまでは、土下座(これ)は自重しようよ」
「お、お、お、オルモーリのおばあちゃまにも言われておりましたでごじゃりまする……以後、気をつけるでごじゃりまするぅ」
 ヤルメキスがそう言ってくれたので、僕も安堵したわけなんですけど、

 グキっ

 この時、僕の腰が異様な音を発しました。

 ……えぇ……先日開催されたナカンコンベ大運動会。
 あの際に、おもいっきりギックリ腰を発症した僕なのですが、あの場ではスアの治癒魔法と飲み薬のおかげで完治していたものの……や、やはりギックリ腰は癖になりやすいといいますか……


 ヤルメキスを抱えたまま、脂汗を流していた僕ですが、
「……旦那様!」
 すかさずそこに、スアが転移魔法でかけつけてくれまして、僕の腰に手をあて、治療してくれたもんですから、どうにかヤルメキスを抱えたまま倒れ混むという最悪の事態は避けることが出来た次第です、はい。


 で、

 ここからが、さっき僕がヤルメキスに話そうとした内容なわけですが……

 コンビニおもてなしでは、赤ちゃん商品も多数取りそろえています。

 哺乳瓶や積み木、粉ミルクなんかも多種多様に取りそろえているのですが、これはすべてスアの絶大なる協力の下に作成された物ばかりなんですよね。

 と、言いますのも……

 見た目は小学校高学年……いや、低学年? とにかく見た目がすごく幼いスアなわけですが、子供を3人産んでいるわけです。
 その子育て期間に、

「……こんな物があったら便利」
「……こんな物ほしい」

 スアが実体験として必要と感じた物を、僕が、元住んでいた世界で流通していた赤ちゃん用商品に当てはめて考えていき、スア工房やペリクドガラス工房の協力の下に商品化・増産している次第なんです。

 特に、粉ミルクに関しましては栄養価も高く、味もいろんな種類取りそろえている次第です。
 スアの場合、前述のとおり体型まで幼いものですから、母乳があまりでなかったんですよね。
 そんなスアのおっぱいから意地でも母乳を吸い出そうとしていたリョータの超吸い込み攻撃を受けて、スアが目を丸くして固まっていた姿は、今も脳裏に焼き付いて……
「……忘れて」
「え? でも……」
「……恥ずかしいから、すぐ、忘れて……すぐ」
 僕の考えていることを察したスアにそんな事を言われてしまったわけですが……

 まぁ、そんなわけで粉ミルクが生成されたわけです、はい。

 今ではこのコンビニオおもてなし印の粉ミルクは広く流通しています。
 この世界には、もともとこういった品物が流通していなかったのもありますが、とにかく赤ちゃんが喜んで飲むこの商品の人気は絶大なんですよ。

 まさに、赤ちゃんまっしぐら!とでもいいましょうか。

 そんなわけで、そういった品物をいっぱい扱ってもいますので、ヤルメキスにもそれらを使用してもらい、何か気が付いたこととか改善要望なんかがあったら意見を聞かせてもらおうかと思ったりした次第です。

 そんなことをヤルメキスに伝えますと、

「と、と、と、とりあえず。これがとっても役にたっているのでごじゃりまする」
 そう言ってヤルメキスが取り出したのは、

『ある魔法使いの子育て日記 ~出産前編』

 と表紙に書かれている魔女魔法出版の本だったのですが……これ、スアが書いた本ですね。
 それを片手に、ヤルメキスはにっこり微笑んでいました。

 ……スアの本が役立っているのは僕としても嬉しい限りではあるのですが……確か蛙って、一度にすごい数の卵を産むんじゃなかったっけ……
 そんな事を思い出していた僕だったわけです、はい。

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