コンビニナカンコンベ その6
ユキカ達がコンビニおもてなし本店でバイトとして勤務し始めて、あっという間に1週間が経過しました。
この間、ユキカ・マリリン・カリントの3人は一生懸命バイト仕事に勤しんでくれました。
その合間に、ユキカはコンビニおもてなしの営業に関してあれこれ僕に質問し続けていた次第です。
「この容器はどうやって仕入れているのですか?」
「この食べ物はどこから仕入れているのですか?」
「商品の運送はどうやっているのですか?」
ユキカは、自分が営業しているコンビニセブンセンテンス……この世界では今のところコンビニナカンコンベと称しているお店に当てはめながら、疑問に思ったことを遠慮無く僕に質問してきました。
そんなユキカに対しまして、僕は、
「容器は、向かいのルア工房に作成してもらって……」
「野菜はテトテ集落から、魚介類はティーケー海岸から……」
「運送は、ハニワ馬のヴィヴィランテスに……」
質問1つ1つに対しまして正直に答えていった次第です。
ユキカは真剣に頑張っているのですから、それに対して真剣に答えないと失礼だと思ったわけです。
そして、1週間が経過した次第です。
この1週間の、ユキカ達の勤務状況を伝え聞いていた、他店の店長達は
「ここまで真剣にやってくれるのなら」
「そうね、もうちょっと頑張ってもらってもいいかも、みたいな」
店長会議の席上で、そんな事を口にしてくれていました。
僕としましても……
最初は「1週間」と言いましたけど、まずは1週間、ユキカ達にコンビニおもてなしのバイトを経験してもらいまして、その上でユキカ達が
「出来れば、もう少し働かせてもらえないだろうか」
そう申し出てきたら、それを受け入れるつもりでいました。
この1週間でユキカ達もわかってくれたみたいなのですが……この世界でコンビニを経営するのはとても大変なんですよね。
ただ弁当をつくるだけなら、イエロ達が狩ってきてくれたタテガミライオンの肉なんかを焼いて味付けすればいいだけです。
ですが、これをお弁当にして店で販売するとなると
容器の開発
使い捨て出来るフォークや箸の準備
弁当を入れるための商品袋
ざっと考えただけでも、これだけの物を安定的に仕入れることが出来る体制を整えておかなければならないわけです。
で、僕はそれをルア工房のルアに協力をお願いしていまして、コンビニおもてなしをこの世界でオープンして以降、ずっと容器類を作成・納品してもらっている次第なんですよね。
元いた世界でコンビニを営業しようとした場合、そんな事まで考える必要はありません。
商品注文システムを利用してインターネットで発注しておけば、早ければその日の夜には全ての品が届けられますからね。
弁当の容器にしても、最初から容器に入った弁当が届けられるのですから心配する必要がないわけです。
ですが、この世界ではそんなシステムはまったくありません。
そんな弁当を作ってくれて、しかも納品してくれる会社なんてまったくないわけです。
これは、僕が身をもって体験してわかっています。
なので、この世界でコンビニを営業したいのであれば、そういった商品供給システムをすべて自前で、しかもゼロから立ち上げる必要があるわけです。
そういった仕入れを行うのには当然ある程度まとまったお金も必要になりますし、そういった先立つ資金を稼ぐためにもしばらくの間コンビニおもてなしで働いてもらって……そんなことを考えていたわけです。
ですが、ユキカは
「この1週間、本当にいい勉強をさせていただきました」
そう言うと、僕に向かって深々と頭を下げました。
「なんなら、もうしばらく働いてくれてもいいんだよ?」
そう言う僕に、ユキカは
「お申し出は本当にありがたいのですが……今の私達に、コンビニの経営が無理だということがはっきりわかりましたので」
そう言いました。
なんでも、ユキカ達3人は、バイト最終日の前日の夜に集まって話し合いを行い、その結論に至ったそうです・
「タクラ店長さんが、ここまでのシステムをゼロから作り上げたのは、本当にすごいと思います。
私もいつか、タクラ店長が作り上げたこのシステムに負けないだけのシステムを構築したいと思っています。今回は色々勉強させて頂きまして、本当にありがとうございました」
そう言って、ユキカは達はコンビニおもてなしを去っていきました。
……で
その後の3人なのですが……実は今、ドンタコスゥコ商会で働いています。
なんでも、
「タクラ店長さんのように、協力してもらえる人脈をまずは作ろうと思っているんです」
ユキカは、そう言って笑っていました。
将来的には、ルア工房にコンビニセブンセンテンスとして商品容器の作成を依頼することも考えているそうでして、
「そのための資金稼ぎも兼ねている次第なんですよ」
ユキカはそう言って笑いました。
「資金稼ぎなら、うちでやってくれてもよかったのに」
改めて僕がそう言と、ユキカは
「……それはとてもありがたいのですが……だからこそ、その道は自ら絶たせてもらったんです……同じコンビニエンスストアとして……いつかはライバルとしてしのぎを削りたいじゃないですか」
そう言って笑いました。
いつも前向きでポジティブなユキカですが……それにくわえてとんでもない負けず嫌いでもあったわけです、はい。
でも、だからといって後先考えないで突っ走って、にっちもさっちもいかなくなってしまった出会ってすぐの頃のユキカの姿はもうありませんでした。
しっかり両足を地につてけ、その上でコンビニおもてなしのライバルになれるだけのコンビニをつくりたい、そう考えているわけです。
「もし、僕に出来ることがあったら、いつでも協力するからさ」
僕がそう言うと、ユキカは
「……ホントに、店長さんは優しいお方です……優しすぎるんです……だから、今は近くにいたくないんです」
そう言って、走っていきました。
「とにかく、頑張りますよ、私!」
そう言いながら、ドンタコスゥコ商会へ駆け込んでいったユキカを、僕は手を振りながら見送った次第です。
「今は近くにいたくないって、どういうことなんだろう?」
ユキカの言葉に、僕は思わず首をひねってしまったのですが、その言葉を聞いていた魔王ビナスさんが
「ホントに店長さんってば、女心には疎いんですから」
そう言いながら笑っていました。
そんな魔王ビナスさんに、僕は
「え? どういうことです? 教えてくださいよ」
そう言ったのですが、魔王ビナスさんってば、
「ふふふ、店長さんがその言葉の意味に気付くのが先か、ユキカさんがコンビニを再興するのが先か、楽しみですわね」
そう言いながら笑うばかりでした。
その言葉に、僕はひたすら首をひねり綴ることしか出来ませんでした。
いや、マジで意味がわかりません。
◇◇
そんなわけで、ユキカはコンビニセブンセンテンスの再興を目指してドンタコスゥコ商会で働いています。
コンビニおもてなし5号店西店には、よくお昼を買いに来ているそうです。
同じ世界からやってきた、同じコンビニチェーン店の店長なわけですし、ユキカには頑張ってほしいな、と思っている僕は、そんな彼女の様子を聞きながら、心の中でエールを送っていた次第です。