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第14話 よろしくな! 相棒!

「こんなスキル、今まで一度も見たことがないわ……」

 エリシュの言葉が的確かつすべてを物語っている。

 そりゃそうだろう。これはあの女神の嫌がらせだ。
 自分の命を引き換えの力だと!? 何が祝福(ギフト)だ、あのアバズレ女神め。
 
「それでヤマト……あなた、体には何か変化はないの?」
「おぉ。別になんともないぞ。少し疲れたってくらいで死ぬ気配なんて、まったくと言っていいほど感じられないな」
「そう……ならよかった。……それにしても、どうしてこんなスキルが発現したのかしら?」

 胸を撫で下ろし、次には思索に耽るエリシュを見て、俺もうーむと考える。

 あの性悪女神とのやりとりを、話してよいものかどうか。
 もしかしたら転生のこと自体、疑わしく思っているかも知れないし。

 しばらく悩んだ末、俺は洗いざらい漏れなく説明する方向に傾いた。

「えーとな。よく聞いてくれエリシュ。俺がこの世界に転生してくるときにだな……」

 俺はエリシュに女神との一部始終を話し始めた。
 転生時に叶えられる願いを、玲奈と同じ世界にしてもらったこと。
 そして、妙に気に入られたその女神から、謎の祝福(ギフト)をもらったこと。

「……と言うわけで、おそらくこのスキルがその祝福(ギフト)ってやつだな。あの性悪女神の考えそうなことだもんな」

 エリシュは目を丸くして聞いていたが、はたと我に返る。

「でも……祝福(ギフト)という割には、ヤマトの行動を後押しするには酷なスキルよね。むしろ正反対と言ってもいいわ」
「だ・か・ら! 性悪っつったんだ! そりゃ女神って名乗ってるくらいだから、ボインバインのキレイなねーちゃんだったけどよ! ……女神(アイツ)、どーも人を試しているってゆーか、見下してるってゆーか、そんな感じだったんだよ!」

 ただ、あの力は絶大だった。普段じゃとても太刀打ちできない外魔獣(モンスター)を遥かに凌駕する戦闘力。紛れもない本物のスキルだ。

「俺は玲奈を探すことを、ぜってー諦めない。強い外魔獣(モンスター)と戦うときにこのスキルを使えば、勝てるような……そんな気がするんだ。……要はよ、使い所じゃねーかな。そんなに酷使しなければ、なんとかなるんじゃね?」
「このスキルの説明……端的すぎて解釈が広すぎる。命を糧にさっきのような力は使えるけど、どれくらい……何回くらい使用できるかなんて、どこにも書いてないわ。もしかしたら、次は死んでしまうかもしれない。このスキルは封印して先に進みましょう」

 そうなると、また亀の如く遅々とした行動になってしまう。
 一刻も早く先を進みたい俺としては、はいそうですか、と頷ける話ではない。

「い、いや、それは分かるけどもよ! 俺は早く玲奈を探し出したいんだよ!」
「その玲奈さんだって、あなたの命と引き換えに、探して欲しいとは決して思っていないわ」
「な、なんでだよ! お前に俺と玲奈の、何が分かるって言うんだっ!」

 俯き加減だったエリシュの顔がおもむろに持ち上がる。そして俺を見据えた。

「……ヤマト。自分の気持ちに正直なところは、とても認めるわ。だけどね……残された側の気持ちも、少しは考えたほうがいい」

 エリシュの言葉が、心に重くのしかかった。
 ブレイクに先立たれたエリシュも、残された側なのだ。

 ———もし俺が死ねば、玲奈はどうなる?

 答えが分かりきっている当然の設問を前にして、玲奈を助けたいという焦りと油断は、彼女をこの世界に一人残してしまう結末があることに気づかされ、俺は軽い恐怖を覚えた。

 そして同時に、エリシュに対して悔悛(かいしゅん)の念が込み上げてくる。
 
「……悪りぃ、エリシュ。お前の気持ちも考えないで、好き勝手言っちまった。お前の言う通り、このスキルは使わないようにする。なーに、気持ちはきっちり繋がってるんだ。俺が死んだら、きっと玲奈も悲しむ。……まあもっとも、玲奈は俺がこの世界にいることは分からないだろうけどな。これからは少し慎重に行動するよ」

 エリシュの表情が少しだけ、緩む。俺の心情も理解しているエリシュから、余計な言葉は聞きたくない。だから、ただそれだけで十分だった。

「そして、玲奈を必ず見つけ出す……それまで頼むぜ。なぁ? ———相棒」
 
 右手を差し出すと、エリシュも同じ動作をする。

「相棒……悪くない響きね」
 
 俺たちは、拳と拳を打ちつけた。

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