①
「カーネーションをください。オレンジ色のものを」
夕暮れの花屋さん。今日も風はつめたい。もう真冬だ。
ライラはバケツに入って並べられたたくさんの花の中から、少しだけ指を彷徨わせてから、一種類を指さした。
今ならちゃんとわかる。贈りたいのがなんという花で、そしてどういう意味で贈るのかも。
「あいよ」
花を買うことはあまりない。なので花屋に居て返事をしてくれた小母(おば)さんも知らないひとだった。
花を買うことがないのは、勿論リゲルのためだ。リゲルが庭を整えてくれたり、仕事で余ったものを差し入れたりしてくれるので、普段は売っているものを買う必要がない。
けれど今日は、自分で手に入れたものが必要だった。
「綺麗に包んでくださいますか。贈り物なんです」
ライラの示したオレンジ色のカーネーション。何本欲しいかい、なんて訊かれて、取り上げられて、まとめてくれる間にライラはそういう要望を出した。
小母さんは楽しそうに笑う。バケツから取り出したカーネーションを、器用にくるくるとまとめながら。
「おや、そうなのかい。告白かい?」
言われてちょっと恥ずかしくなった。別にそれが当たっているというわけではないのだけど。でも、『大好きなひと』という意味では同じなので。
「いえ、……恋人に、です」
「あらま。そりゃすまなかったね」
小母さんはまた笑って、そして壁に吊るしてあった、たくさんのりぼんを示した。
「りぼんは何色がいいかね。色々あるけども」
壁には巻かれて束ねられたりぼんが並んでいる。何十本もあって、色だけでなく太さや模様なんかも様々だ。
ライラは即答した。
「そこの、水色のものをお願いします」
一番はじめに目についたりぼん。
しゅるっと細くて、艶があって、そして、オレンジがよく映える色。
……自分の持つ色。