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薬草採取とゴミ収集

 俺とナレアは今、林の中をひたすら歩き回っている。何をしているのかというと、メ―ベロン草という植物を探し回っているのだ。薬を作るためにその植物が必要らしい。本当は自分で採りに来たかったようだが、他の仕事が忙しいので、仕方なく俺の事務所に依頼したというわけだ。実物を見せてもらったのでどういう植物かは分かっているのだが、植物なんてどれも同じに見えてしまうため、探し出すのは一苦労だ。

「これじゃないか?」

 俺は目の前の植物を指さした。

「違うわよ、色がもっと濃い緑だったよ」
「そうだったか?」
「そうだよ。もう、しっかりしてよね!」
「まぁそうカリカリするなよ」

 これだけ探しても見つからないのだからイライラしてくるのは当然だろう。簡単に見つけだす事ができる魔法ってないのかなぁ?もしかしたら俺が知らないだけでそういう魔法があったかもしれない。もうちょっと調べてから来るべきだったか。
 それにしてもいったいどこにあるというんだ。この辺りに生えていると聞いて来たのに全然ないじゃないか。いったいどういうわけなんだ?もしかして嘘の情報を聞かされたのか?いや、何の得にもならないのにそんな事するわけないか。
 はぁー、もう嫌になってきた。この依頼断ろうかなぁ。

「ねぇ、もしかしてこれかな?」
「おー、なんだかそれっぽいな!でかした、ナレア!」

 ついにナレアが見つけたみたいだ!偉いぞ、ナレア!

「えへへへ」
「じゃあ、帰ろうか!」
「そうだね。無事に見つかってよかったね」

 俺達が帰り支度を始めるとどこからかいい匂いがしてきた。

「ん?なんだかすごくいい匂いがする」
「ホントだ。こっちの方からだね」

 俺達は匂いのする方に歩いていった。

「この辺りの草からにおうな」
「なんだか食べてみたくなるね」
「俺ちょっと味見してみるよ」
「え?ホントに食べるの?やめといた方がいいんじゃない?毒かもしれないよ」
「こんなにいい匂いのする植物が毒のわけないよ」
「そう?なーんか怪しいんだよなー」
「心配しすぎだって」

 俺はいい匂いのする植物を魔法でちょっと炙って口の中に放り込んだ。

「どう?」
「うん、うまいよ」
「なんだ、良かった。心配して損した」

 俺はなんだかとてもいい気分になってきた。なんだこの感覚は?こんな気持ちのいい感覚は初めてだ。天にも昇る気持ちとはまさにこの事。この植物にこんな効果があるなんて驚きだなぁ。まだまだ沢山あるからどんどん食べてもっと幸せな気持ちになろう。
 俺はひたすら食いまくった。どんどん幸福度が増していく。これがあれば争いをしようなんて気はおきなくなる。みんなに配れば、トラブルを激減させられるな。あっ、トラブルがなくなったら俺の仕事減っちゃうな。でもみんなが幸せになれるならいいか。なんて事を考えながら採集していると…

「ぎゃははははは」

 俺は笑いをこらえる事ができず、思わずふきだしてしまった。

「どうしたの?」
「きゃははは、ぐへへへへ、きひひひひ」

 まずい…笑いがとまらない…

「ちょっと…なんなのよ、いったい」
「のほほほほ、けへへへへ」

 さっきの植物の副作用か…ただ幸せな気持ちになるだけじゃなかったのか…

「やっぱり毒だったんだね。だから忠告したのに…」
「ぐひ、ぐひ、ぐひひひひ」
「まぁほっとけば治るよね。しばらく我慢してなよ」

 別に苦しいというわけではないし、あれほどの快楽が得られるならこれぐらいのリスクは背負ってもいいかもな。
 30分後。

「はぁー、やっとおさまった…まさかこんな副作用があるなんて驚きだな」
「私は何か嫌な予感してたよ」
「ナレアの勘もたまには当たるんだな」
「前にもこんな事なかったっけ?」

 俺はそっぽを向いた。
 まぁトラブルもあったが、とりあえず目的のものは手に入れる事ができたし、俺達は事務所に帰る事にした。帰り道にまた心奪われる植物を見かけたが、今度は騙されずにスルーした。でも今度こそ最高の食材だったかもしれないよなぁ…やっぱり食べておけば良かったかなぁ?何度痛い目にあっても懲りないとよく言われるが、俺はチャレンジ精神を失いたくないのだ。守りに入るのは60才になってからでいいと思っている。それまでは冒険しないともったいない。などと考えているうちに事務所に着いた。

「次はゴミ収集の仕事だぞ」
「えーーー、ちょっとゆっくりしようよー」
「ダメだ。今すぐ行く」
「ちぇっ」

 俺達はゴミを収集するため外に出た。この仕事は本音を言うと引き受けたくはなかった。ゴミを集めるなんてなんだかレベルの低い人間のする事ではないかと思ってしまうのだ。そんな風に考えてはいけないとわかっていても、自分のするような仕事ではないと思ってしまう。人のやりたがらない仕事はいい金になるので、仕方なく請け負っているが、もし依頼料が安かったら絶対引き受けなかっただろう。
 しかし、こんな仕事でも楽しい部分もある。黒いゴミ袋に入っていて中は見えないのだが、俺は魔法を使って透視する事ができる。ゴミ袋の中を見て、どんな生活をしてるのか思いを巡らすのがこの仕事の唯一の楽しみだ。本当はいけない事だと分かっていてもついついやってしまう。誰もやりたがらない仕事をやってるわけだからこれぐらいは許されるだろう。

「このゴミ袋の中、高級食材ばっかりだ。相当お金持ちが捨てたんだろうなぁ」
「ロテスさー、ゴミ袋を透視するなんて趣味悪いと思うんだけど…」

 ナレアは軽蔑するような目で俺を見た。

「結構面白いんだぞ。まぁナレアには分からないかなぁ」
「分かりたくない。見られる人の気持ちになってごらんよ」
「俺は別に見られても構わないけど」
「よく考えるとゴミを見られて嫌な気持ちになる人なんてそんなにいないか」

 おっ、今度はおもちゃが捨ててある。まだ使えるのにもったいないなぁ。子供が成長して使わなくなったのかな?売ればいい金になるかもしれない。まぁ、ゴミを売ってまで金を手にしようとは思わないけど。
 俺がゴミ袋を透視して楽しんでいると、一人の若い男がナレアに近づいて来た。

「いけないなぁ、こんな美少女がゴミ収集なんて。俺が代わろうか?」
「え?いいの?じゃあお願い」
「オッケー。俺の名前はゴスラフっていうんだ。君の名は?」
「私はナレアよ」
「いい名前だね。君にぴったりだ!それにしてもなんで君はそんなにかわいいのにモデルとかやらないの?」
「あんまり興味なくて」
「そうなんだ。もったいないなぁ」
「あんまりおだてないでよ」

 なんかいい雰囲気だな、この二人。俺の存在が完全に忘れられてるのは悲しいけど、楽しそうでなによりだ。ナレアをナンパする男は沢山いるけど、その中でもこのゴスラフって男はカッコいい方じゃないかな?付き合っちゃえばいいのに。でもなんだろう、このもやもやする気持ちは?別にナレアがどの男と仲良くしてたっていいじゃないか、いいはずなのに、なんでかなぁ、なんか変な気持ちだ、おかしいなぁ。

「ゴスラフだってカッコいいじゃん」
「そう?そんな嬉しい事言ってくれるのはナレアだけだよ」
「私の感覚がずれてるのかなぁ?」
「そうなのかも」
「はははは」

 あーあ、楽しそうだなぁ。まぁ俺は俺で楽しむからいいや。
 ん?なんだろう?このゴミ魔法縄でグルグルに封印されてる。こういう封印を見るとついつい解いてしまいたくなるんだよなぁ。封印を解くとどうなるのかとても楽しみなんだ。
 俺はゴミ袋を開けて封印されてるゴミを取り出した。そして、魔法縄を少しづつ解いた。さぁ何が出るかなぁ?

 ぼわん!

 ゴミはトラ型のモンスターに姿を変えた。

「ぐははは、久しぶりに戻ってこられたぜ!人間どもを食いまくってやる」

 どうやら解いてはいけない封印だったようだ。俺が出してしまったんだから俺が責任を持って退治しなければ!

「何このモンスター!」

 ナレアは驚いている。

「俺が片付ける。二人は下がっててくれ」

 そう言うと俺は一人でモンスターに向かっていき、腹を思いっきり蹴った。

「ふっ、その程度の力か!」

 モンスターには全く効いていない。
 モンスターは鋭い爪で俺をひっかこうとしてきた。俺はなんとかギリギリの所で攻撃をかわした。

「これならどうだ!ボラステ!」

 雷魔法を使い、雷をモンスターに放った。

「げべぉ」

 モンスターはひっくり返った。

「やったぜ!」

 楽勝、楽勝。
 俺はやっつけたと思い、モンスターに背を向けたその時。モンスターが口から炎を吐きナレアの方に飛んでいった。ナレアも別の方を向いており、攻撃に気づいていない。

「危ない!」

 ゴスラフはとっさに水魔法を使い、炎をなんとか防ぐ事ができた。モンスターは最後の力を振り絞って攻撃してきたようで、このあと動かなくなった。

「大丈夫かい?ナレア」

 ゴスラフは心配そうな顔で言った。

「うん、助けてくれてありがとね」
「いいの、いいの。女の子を守るのは男として当然だよ」
「私だって本気で戦えば強いんだよ」
「そうなの?全然そんな風には見えないけど」
「私と戦ってみる?」
「君の美しい体を傷つけたくはないよ」
「ホントは負けるのが怖いんじゃないの?」
「そうかもね。はははは」

 おーーーい、また俺の事忘れてるぞーーー。

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