118 母と娘のお茶会
「…
素朴な疑問として
「高校入ったばっかりの15歳16歳に、そんなのいた訳ないしっ⁉」
「……じゃあ、ホントに、
キャロルは、もはや涙目だった。
「わぁっ⁉志帆さん、それ以上言わないでっっ!もう、侍女
そもそも、深青が読んだ〝エールデ・クロニクル〟における、志帆とデューイが初めて結ばれるシーンは、いわゆる、
アデリシアとの
だからと言って、いくらなんでも、一緒に横になっているだけで、コウノトリが子供を運んでくるとまでは思っていなかったのだが、朝、立てなくなるほど何度も抱かれては、嫌でも自分の知識が浅薄だった事を思い知らされるのだ。
胸キュン恋愛映画が、一気に生々しい昼ドラへと変貌したようなもので、気持ちが追い付かない。
頭を抱えるキャロルを、ポンポンと優しくカレルが叩いた。
「まぁ…貴女が皇族に弄ばれた、とかなら話は別だけれど、話を聞いている限りは、殿下も相当本気みたいだし、貴女自体も『好きだ』って、クーディアで言っていた訳だから、私は別に、怒ったり反対したりはしないのよ?そもそも、デューイとエイダル公爵が大人げない事をやってるから、殿下の独占欲に拍車がかかって、
「…お父様…
さすがに少し、
「いいのよ。あの時点で、家族全員で侯爵領に引き上げるって言う方が、ありえないもの」
「………」
「エイダル公爵は、一年以内には中央から
確かに、それにはキャロルも驚いたのだ。
少し話をしただけでも、エイダルが相当に優秀な人物である事は分かる。
公国屈指の天才と称されているのは、決して周りがエイダルの身分を考慮しての
滅私奉公の究極形。エイダルの判断基準は、
デューイなどは反発を隠さないが、カーヴィアルで、アデリシアをずっと見てきたキャロルには、実はそれは、馴染みのある考え方なのだ。
決して、他の大多数の貴族たちの様に、エイダルが疎ましいとは、思えない。
…人格的に面倒くさい、とは思うが。
「やっぱり公爵は……お父様をそれだけ、認めていると言う事じゃ……」
「そうでしょうね……。私が、デューイをそこまで意固地にさせてしまったって言う、自覚はあるのよ。これでも」
そう言って、ほろ苦くカレルが
「だから、公爵がいらっしゃった後は、デュシェルは公爵にお任せして、
ちょっと私も、そんな気が…と、キャロルは小声で視線を逸らしている。
「だけど貴女がエーレ殿下と結婚をする事で、もしかしたらだけど、そろそろ貴女にも〝エールデ・クロニクル〟の、次の章の誰かと交代する時間が近付いているのかな――なんて言う気は、しているのよ?何となくだけれど」
「えっ⁉」
「でもあれは、本当に、ある日突然理解した事だし、叶先生の事は、貴女から聞くまで分からなかったから、一概に、貴女がそれに気が付くとは言えないんだけどね?」
曖昧に小首を傾げた
「とにかく私は、貴女が、好きになった人と、幸せになってくれれば満足よ?私は結婚式なんてしていないし、皇族の結婚式とか、尚更想像の範囲外で、楽しみだわ。色々しがらみがありそうで、少し先になるのかも知れないけど……出来ればお花の飾りつけとかは、一手に引き受けさせて貰えると嬉しいわね」
「………
「なあに?」
「磁器婚式なら、まだ間に合うと思う。私の誕生日と合わせるくらいで、分かりやすくて良いんじゃないかな。式典終わったら、お父様に贈る、何か、探しに行こうよ」
磁器婚式は、結婚20年のお祝いに、夫婦で陶磁器にちなんだ何かを贈りあう、志帆や深青のいた世界の習慣だ。
エールデ大陸で、そんな習慣は聞いた事もないが、カーヴィアルの習慣だと言って贈っても、デューイには分からない筈だ。
大事なのは「気持ち」の方だろう。
「そうね……」
「うん。って言うか、もう決めた。お父様には内緒で、サプライズパーティーにしよう。式典終わったら、一度は帰るんだよね?
「………キャロル」
「え?」
「貴女、一時的にせよ、帰らせて貰えるの?」
「………ええっ⁉」
「ちゃんと、エーレ殿下を説得してね?」
カップに残っていたお茶を、最後飲み干して、カレルは