不穏
それからしばらくは、何事もなく日々が過ぎて行った。
儀式について何の申し伝えも無く、それ以外の今後についても何も無く。
ただひたすら二人の侍女をゆっくりとした時間を過ごす。
そこにマクスウェルが時々やってくる。そんな生活だった。
あの水桶を再現できないかと、ひたすら魔法を試すという日課が追加されている以外は一般的な令嬢と何も変わらない日々。
魔法は上手く働かない。
私の故郷に繋がったことはまだ一度も無かった。
◆ ◆ ◆
少しずつ、少しずつこの国での暮らしにも慣れてきた。
メアリに勉強を教えてもらったおかげでこの国の文化にも歴史にも大分詳しくなった。
けれど、それは完全に付け焼刃だと今まさに気が付いている。
「北の国境沿いに乙女の故郷よりの使者がありました」
確認のため、至急乙女には現地に向かって欲しい。
そう依頼があったのは、ある晴れた日の朝だった。
わざわざ、外交も分からぬ私が行く理由は? と少しだけ疑問に思ったけれど、それよりも故郷の誰かに会えるかもしれないという気持ちの方が大きかった。
それがいけなかったのかもしれない。
国境線にむかった馬車が襲われた。
魔法を使う間も無く、鋭い衝撃がした。
馬車が衝撃で横倒しに転がったのだと気が付いたときにはすでに遅かった。
手慣れた賊に手首を縛られ狭い箱に押し込まれる。
そのままどこかに運ばれた様だった。
ここがどこかすら分からない。
私を攫った人に竜の国の人間が混ざっていたことだけは分かるけれど、どういう目的でこんなことをしているのかは分からなかった。
私を約束の乙女だと知るものは少ない。
単なる物取りの仕業かもしれない。
どちらにせよ、運の無い自分にがっくり来てしまう。