99 公爵邸 主の帰還
「……お嬢ちゃん。それ、そんなアッサリ言う事か?」
「分かっているなら、なぜ、そのままなんだ。泳がせているのか」
うーん…?と、キャロルは小首を傾げた。
「内通者がいるのは確実なんだけど、個人の特定をするには、ちょっと時間がなくて。だったらもう、
「……まあな」
「……情報を流すくらいなら、確かに時間もない事だし、この際見逃しても良いが、内部で身の危険はないと断言出来るのか?」
眉を
「まぁ…厨房のキノコが
少なくともキャロルが、令嬢らしからぬ行動で、使用人食堂に出入りしていたのには、明確な理由があったのだ。
その過程で、仕入れ値の異常にも気が付いたのか。
しかもグレイブは、全く気が付かなかった。
気にしなくて良い、と、キャロルは呆然と立ち尽くすグレイブに、片手を振る。
「
「――もちろんでございます、お嬢様」
グレイブは深々と頭を下げ、ヒューバートとルスランは、呆れたようなため息を吐き出した。
「お嬢ちゃん、公爵邸乗っ取ってんなぁ……」
「人聞き悪いよ、ヒュー。
「……まあ、その通りに聞けば、エイダル公爵の方が、侯爵令嬢を
「うん。それも間違いじゃないからね。きっと父は褒めてくれるんじゃないかな。よくやった!って。あ、あとルスラン、
「…それならまだ、エーレ様も納得される…のか……?」
いやいや無理だって、と、ヒューバートがルスランの肩を叩いた。
「最終的には妥協されるにしても、俺らは、とりあえず怒られる未来しか見えねぇよ、ルスラン。まぁ、ある意味、お嬢ちゃんがお嬢ちゃんのまま、復活してくれたのは嬉しいけどな」
「ヒュー……」
「まあ、エーレ様に心配かけるのは、ほどほどに頼むわ。むしろ俺らのために」
ごめんなさいー…と、全く悪びれた風もなく
「まあ、さすがに式典であのドレスだと、剣は振るえないだろうから、そこは俺とフランツが、ちゃんと護衛をする。暗器を仕込むにしろ、それは最終手段にしておいてくれ。とりあえずは頑張って、今回の襲撃を乗り切れ。今以上に怪我を増やす事だけはするな」
「承知しました、頑張ります」
「じゃあ、まあ、あまり衣装係を待たせると、今晩徹夜で衣装直さなきゃならなくなるだろうから、帰るわ。不自由があったら、宮殿に使いを出してくれて、構わないからな」
「うん。来てくれてありがとう、ヒュー、ルスラン。またね」
最初と最後だけを見れば、確かに「親しい者同士のお茶会」に、間違いはなかった。
だがグレイブにしてみれば、想定していた「姫君の我儘」以上に、中を引っ掻き回された感が強い。
滞在4日目。
グレイブの危惧は、思ったよりも早くに具現化した。
本人達曰くは、本気の
「グ、グレイブ執事長!リヒャルト様がお戻りに――」
「は⁉︎」
「レアール侯爵も、ご一緒か?」
「いえ、今はまだお一人で、執務室にお向かいに――」
「とりあえず、寝室とダイニングも、手分けして整え直すんだ。執務室には私が行く」
とは言え、あらゆる突発事項にも揺らがないのが、公爵家の使用人たるもの、ここで醜態を晒す訳にはいかない。
グレイブは、慌てた素振りは一切表に出さず、執務室の扉を開けた。