98 エイダル公爵邸(5)
「……お嬢ちゃん。襲撃
すっかり、自分の執務室であるかのように、好き放題に利用しているキャロルだったが、
貴族のご令嬢が開く
「だがフランツ、まだ第二皇子派は完全に瓦解した訳ではなく、即位式典前に、最後の
「ルスランの言い方、何か含みがあるなぁ…」
「含み?その怪我はともかく、君が〝病弱な深窓のご令嬢〟だなどと、何の冗談だ。公都でその噂を聞くたびに、何度吹き出しそうになるのを堪えた事か。俺は事実を述べただけで、含みなど持たせたつもりはない」
「………わぁ、清々しいくらいに言い切られた」
次期皇帝陛下の「右腕」と「左腕」と呼ばれる2人だと、衣装係から、グレイブも確かに耳打ちはされたのだが、であれば、尚更、何故、侯爵令嬢と、
しかも茶会の話題にしては、物騒極まりない。
「ま、まぁ〝病弱な深窓のご令嬢〟論争は、この際置いておくとしてだな。とりあえず、公爵が刺客の矛先を
「ヒューも、フォローになってないんだけど。…でも、まあ真面目な話、邸宅の護衛に対応させるつもりでいると思うよ、もちろん?ただ、私が死んだら死んだで、政治的な口出しをしないような、下位貴族の令嬢を改めて皇妃に勧めれば良い――くらいにしか、思ってないんじゃないのかな?
「ああ⁉︎」
思わず声を荒げたヒューバートに、冷めた紅茶を取りかえるグレイブの手が、一瞬止まった。
その様子を視界の端に留めながらも、キャロルもヒューバートもルスランも、何も言わずに、自分たちの会話を続ける。
事実を伝え、釘を刺しておく事は確かに必要だからだ。
「エーレ様がレアール家に〝婚姻申込状〟を正式に発した事は、既に中央の目端の利く貴族の間では周知の事実となっている。中には、レアール侯への接触機会をうかがっている家もあると聞く。エイダル公爵からすれば、この機にレアール家が、中央政治に口出しを始めてもおかしくないように見えて、危機感があると言うところか?牽制の意味も兼ねて、公爵邸に滞在させている、と。もっとも俺からすれば、侯爵にそんな野心があるようには見えないんだがな」
「現在の式典警備責任者の立場さえ、煩わしそうだものな」
デューイ・レアールの
「父にそんなつもりは全くないけど、公爵の立場からすれば、ミュールディヒ侯爵家の二の舞にならない保証はないって見えるんじゃないかな。おかげで今、父は同類扱いされた怒りに燃えて、誰も消火出来ない。はは」
と言うか、不機嫌さを前面に押し出して公務をこなさないで欲しい。
もちろん、なんだかんだで、手を抜く性格でない事くらいは、分かってはいるのだが。
「いや、笑ってる場合か?そう言う事なら、俺かルスランが隙を突いて抜けて来るぜ?レアール侯爵も、娘の護衛理由なら、宮殿の警備から一時的に抜ける許可もくれるだろう」
「ああ…いい、いい。イルハルトさえいなければ、侯爵家の方の護衛だけで、多分何とかなると思ってるから。2人には、ここ数日の間に、公爵邸周辺が、
しかしなぁ…と渋面を作るヒューバートに、ルスランも難しい
「あ、じゃあ、ルスランの
「貸すのは…構わないが……」
「……自分が大人しくしてるって選択肢は、ない訳だな……」
「どうやったって襲撃受けるんなら、こっちに都合の良い方に動いて貰う方が、まだ良いと思う」
ルスランもヒューバートも、これが相手がキャロルでなければ、その通りだと頷けた筈なのだが、キャロルの言い方に、一抹の不安を覚えて、じっとキャロルを見つめる。
「お嬢ちゃん…念の為聞くが、エーレ様には言うな、と?」
「うん、事後報告でお願い」
「やっぱりか!」
「そりゃそうでしょ、ヒュー。今言ったら、絶対、エイダル公爵と大ゲンカでしょ。式典前に、それはダメでしょ。エイダル公爵の考え方も、当事者の
「うわぁぁ、正論で何も言えねぇ!ルスラン、おまえも何とか言えよ!」
頭を抱えるヒューバートに、ルスランは一瞬、視線を宙に投げたものの、そこから、何を言うでもなく、応接テーブルの上に、ゴトゴトと暗器を置きはじめた。
「お…まえ…諦めたな……」
「止めたって聞きそうにないなら、求められている物を出すしかないだろう。だが、さすがに事後報告は認められない。襲撃予定は何時頃だと、考えているんだ?その日に、微妙にエーレ様が制止
「ああ、なるほど…それはしようがない、か……って言うか、ルスラン、この暗器今、どこから出てきたの……?」
某猫型ロボットのポケットもかくや、と言わんばかりの暗器が、お茶とお茶菓子の合間をぬって、並べられていく。
「内容の説明なら
「あぁ、はいはい。襲撃予定日時の話だよね。実際、正確であり、不明でもあるんだけど――エイダル公爵がこの屋敷に戻ってきたタイミング次第、になるかな」
「…と、言うと?」
「どのみち、公爵だって、自分の式典準備に一度は邸宅に戻って来る訳で…。それが午前中なら、その日の夜。戻って来るのが午後なら、次の日の夜に来る…って、感じかな?」
「その
「うん。
「⁉︎」
あまりにハッキリ断言されて、グレイブが、追加で運んで来た紅茶用の砂糖の塊を数個、器からこぼれさせていた。
ヒューバートとルスランは、何でもない事のように言うキャロルに、目を