95 エイダル公爵邸(2)
「これは…いったん避けた書類は、元通りに積み上げるべきなんですか?それとも、2年前のターシェの納税書類の下に、カーヴィアル語の大衆小説が
「は⁉︎いや、我々は、この部屋の書類の内容までは、読めませんので……だからこそ、掃除のための出入りを許していらっしゃるのでしょうし…。ですが、昨今使用された形跡がない書類や本がほとんどのようですので、元通りで
「分かりました。では明日にでも、一宿一飯のお礼に、この部屋の書類を分類させてもらいますね」
そう言ったキャロルは、グレイブの返事を待たずに、執務室の机の上にあった書類をいったん足元に置くと、部屋の窓を開けて、階下の庭にいた、レアール家の護衛達に、執務室まで来るように集合をかけた。
「えー…さて皆さん。この後、私とエイダル公爵、第二皇子派にとっての
わざと明るく、冗談めかして言うキャロルに、サンドイッチを応接テーブルに並べるグレイブは、危うく手にしていた分を取り落としそうになったが、部屋に集まった護衛達は、いたって涼しい顔だった。
「キャロル様……それは、そもそも揃わせてはいけないものなのでは?」
ごくごく真っ当な疑問を口にするランセットに、キャロルが「不可抗力」と、肩をすくめる。
「公爵閣下が、残党の一掃を目論んで、揃えちゃった以上は、もうどうしようもないし」
「……ここに来るまで、デューイ様がいつにもまして不機嫌だった理由が、良く分かりました」
思わず天を仰いだヘクターに、グレイブを除く全員が、深く同意していた。
「多分もう、
「かしこまりました、キャロル様。それで我々は、今晩からでも待機すべきですか?」
「ヤマ場は公爵が正装の着替えに戻って来られるその日じゃないかと思ってるんだけど…黙っていても、2人揃う訳だし。とは言え、
頭脳労働はランセット、実働はヘクターと、何とはなしに区別をしはじめたキャロルに、当の2人も納得をしているらしかった。 何より、キャロルより重傷を負い、思うように動けないランセットは、今はそちらに存在意義を見出しているフシがある。
「……内通者?」
「あ、忘れてた」
さも、今、グレイブの存在に気が付いたと言わんばかりのキャロルだったが、長年、公爵家に仕えてきたグレイブは、それが演技だと、心のどこかで察知していた。
「ここの話は、他言無用にお願いします。
「そんな…ことは……」
「
ふふっと笑うキャロルに、お人が悪いですよ、と、やはり笑顔のランセットが声をかけている。
「単に楽観視はしない事にしてるだけだってば。ねえランセット、交代って私も――」
「馬鹿な事おっしゃらないで下さい、キャロル様。何をしに
「……ランセットが、最近容赦ない……」
「いや、コイツ間違いなく、
サンドイッチに遠慮なく手を伸ばしながら、ヘクターが
「襲撃はともかく、斥候とかは、見かけても、当日まで放置で良いですか?下手に捕まえて、そいつ以外、トカゲのしっぽ切りで切り捨てられるのは避けたいんですよね」
「あ、うん、そう。もし怪しげな人影とかがあっても、基本、放置で合ってる。どうせ私達の到着を確認する程度の
「了解です」
「それで、母や弟は、襲撃の動線からは一番遠い所にいて貰うつもりなんだけど…公爵の寝室は、ここだって。じゃあ、私と父は、それぞれこの辺りの寝室にいたら、襲撃者を誘導出来て、取り押さえやすいと思うんだけど、どうかな?」
見取り図にグルグルと印を付けながら、令嬢らしからぬ仕種でサンドイッチをかじって、キャロルと侯爵家の護衛達の会話は続く。
結局、キャロルの言った通りに、