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「どうした? 元気がないじゃないか」
 リゲルが首をかしげてライラを見た。玄関へ出ていくのは、ゆっくりと、そろそろとした歩みになってしまっていた。常の自分とはまるで違う様子になってしまっていること。良く自覚している。
 けれどいつものように笑えない。なんて情けない。
「この間からこうなの」
 ライラの母も、ちょっと心配そうな顔になった。
「……次の試験が憂鬱なだけよ。なんでもないわ」
 でもライラはそんなつまらない言い訳しかできないのだった。玄関に居る、二人の前までやってきたものの。
 ライラの言葉に、母とリゲルが何故か顔を見合わせた。
 なにかある。そう察されたのだろう。
 試験が憂鬱なんて、ライラにあったためしがないのだ。そしてその『試験が憂鬱』なんて発言するときは、なにか言い訳に使っているのだということもわかられている。
「そうなのか。そんならいいが」
 でもリゲルがここで追及することはなかった。
 わかっているけれど。
 あとできっと、言わされる。
 隠し事。
 しておくなんて許してくれないだろうし、ライラもこの不安を抱えたままでいたくなかった。
 だから言わないといけない。それでもどうしても、それこそそれは『憂鬱』。
「そうね。さっさと終わらせておしまいなさい。さ、リゲルくん、入って。少し早めの七面鳥を買ったのよ。グラタンにして、今、焼いているわ」
「ほんとですか! 美味しそうな匂いがしますね」
 母も話を終わらせてくれて、リゲルを家の中へ招いた。リゲルの声が輝く。ちょっとだけ『無理に言った』という響きではあったが。
「いいチーズも買ってきたの。山羊のお乳でね」
 ほっとして、ライラも話に加わる。
 廊下はそう長いこともない。キッチンとダイニングはすぐそこだ。その短い歩みを終えて、ダイニングに入る前。
 ライラの手に、そっとなにかが乗った。リゲルの手。
「あとで散歩でも行こう」
 そっと、近くで言われる。ライラの胸がとくりと高鳴った。
 そのとき、きっと言わなくてはいけない。
 嫌だった。こんな醜い自分、晒したくない。
 けれど確かに胸の中、安心もしていた。この詰まったような苦しい感情を、吐き出せてしまうことに。
 リゲルならちゃんと聞いてくれる。そのあとの反応がわからなくても、そのことくらいはわかっていたから。
「……うん。行く」
 だからライラは笑った。こんな、あからさまに不安定な様子を見せてしまっている自分。そんな自分を気遣ってくれる、リゲルのやさしさが嬉しかったから。

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