竜の国で大人になること2
何度も、何度も、何度も呼びかけても魔方陣は何も変わらない。
そういう世界に彼は一人でいるのだろうか。
背筋をゾクリとした感触が通り抜けた気がする。
私は泣いて泣いて取り乱して、落ち込んでそうして何とか自分を保っていたけれど、彼にそうした様子はない。
まだ、子供なのだと色んな場所で言われながら耐えているのだろうか。
「あの方にも大切なものができるといいですね」
私がそう言うと、「はい勿論です」とメアリとシェアリがほほ笑んだ。
◆ ◆ ◆
明日は儀式があるらしい。
その時専用だという白に水色の刺繍が施されているしっとりとしたドレスはもう渡されている。
大切なものが何も無いらしいマクスウェルも私の儀式に同伴してくれる。
あの時助けてくれたお礼をと考えるけれど、今着ている物を含めて私の身の回りの物はすべてこの国に来て得たものばかりだ。
そこであの日着てきたものを思い出す。
メアリ達二人に聞くと手入れをして衣装室にきちんとしまわれているそうだ。
「ロケットがあった筈なんですが」
細工のしてあるネックレスの中には宝石が一粒入っている。
魔法の使えない私のためのお守りとして持たされた石は、あの人の髪の毛よりもまだ赤い。
お礼です、と言ったら受け取ってくれるだろうか。
竜としての責務だから助けたのだと断られてしまうだろうか。
この国に来て数日。あの人と出会ってからも数日しか経っていないので分からなかった。
「この国でプレゼントのマナーとか特別な意味はありますか?」
私がメアリに聞くと「恐らく乙女の国と変わりませんわ」と言われた。
「竜は宝石や黄金が好き。というのは確か人間も一緒ですし、名前を贈り合うのは婚姻と同等の意味を持つという事以外は同じ筈ですわ」
花や菓子などは普通に贈り合うそうだ。
名前を交換することが婚姻と同等というのは驚いた。
「あなたたち、私に名前を教えてしまって本当に良かったの?」
「「勿論ですわ」」
二人は当たり前の事の様に返してニコニコと笑っていた。
だからという訳ではないけれど、明日が儀式の本番だというのにあまり緊張しなかった。