儀式5
呼んではいけない理由があるのだろう。この国のマナーは私の国とあまりにも違っていて難しい。
「それでは、なんとお呼びすればよろしいですか?」
なるべく優雅に見える様に微笑んでそれからマクスウェルに聞く。名前を呼んではいけないのだから多分マクスウェルと直接呼ぶのも駄目だろう。
「乙女。私の事はお気になさらず」
見えない壁の様なものがある気がした。
元々貴族同士の付き合いというのはそういうものばかりだけれど、それにしても一歩引かれているような感覚。
最初に私と会ったときに国主様に食ってかかっていた時よりもずっと遠いような気がする。
当たり前かもしれないと思う。お互いにまだ名乗ってもいない関係なのだから。
「あだ名をお付けにしたらいかがですか?」
ニッコリ。いままで見た中で一番の貼り付けましたという笑顔でメアリが言った。
「まだ彼は子供ですから愛称で呼んでも問題無いかと思いますよ」
メアリは付け加える様に言う。
マクスウェルは大きくため息をついた。
「マックスとお呼びください、乙女」
「マックス……」
自分の口からでたその響きは不思議な感じがした。
「マックス、これからよろしくお願いしますね」
私が笑いかけるとマックスは一瞬ぽかんとした後「精一杯お支えいたします」と答えてくれた。
「ところでそれは?」
マクスウェルはテーブルに出ていたアクセサリーを見ている。
「魔法付与の練習をしていたんです」
儀式の詳細はよく分からないけれど、最終的に何かに王のための魔法をかけねばならないらしい。
「へえ、綺麗に守護の魔法がかけられていますね」
アクセサリを眺めながらマクスウェルが言った。
「それは“視る者”の力ですか?」
「はい。綺麗に魔法がかかっていることこの目にきちんと写っております」
それであればよかった。
「儀式は二度かに分けて行われます。
最初は古い魔法具を使いますので、緊張なさらずに」
マクスウェルが言った。
「それはいつ頃おこなわれますか?」
「二日後の予定です」
その後もう一度今度は最後の儀式があるらしい。
「……何故乙女は私をお選びいただいたのでしょうか?」
マクスウェルが紅茶を飲んだ後たずねた。
この人は私がこの国にきて初めてであった人だ。
それにこの国にはほとんど知り合いはいない。
理由があっても無くてもマクスウェルにお願いするかお任せするかの選択肢しかなかった。
けれど強いて理由をあげるなら――
「……私に命を預けてくださった人ですから」
それが信頼にあたいしない訳が無い。
私が事実を伝えると、マクスウェルは面食らった様子だった。