②
「……そう、だったんですね」
あまりに意外な状況に戸惑いながらも、サシャはやっと気を取り直した。
「え、えっと……どうして……」
「俺は知らないな……マスターなら知ってると思うけど。でも唐突だったな」
むしろそんなサシャを可哀想に思ったのか。彼は優し気な声になって言ってくれた。内容はなんの救いにもならないものだったけれど。
「……そう、ですか……」
それだけ言って俯いてしまったサシャを気遣うように、彼は軽く覗き込んでくれて、「とりあえずおつかいはこれだよね」と茶葉の缶を出してくれた。
「はい……」
受け取って、代金を払って、カフェをあとにする。まるで道がぐにゃぐにゃとやわらかくなってしまったように、帰り道は心許なかった。
どういうこと。
カフェを辞めたって。
それで私になにも言ってくれなかったって。
そういえば。
サシャは思った。
確かに一週間以上、シャイはヴァルファーにもおつかいへきていなかったのだ。これまでそんな頻度がさがることはなかったのに。
それどころかそれ以上にやってきて、ヴァルファーのマスターに「このサボり常習犯め」なんてからかわれるくらいだったのに。
交際をはじめてからはマスターやスタッフに「デートならよそでやってくれよ」なんてもっとからかわれるくらいにだったのに。
それが、一週間以上ない。もうひとつ、不安材料が増えてしまった。
大体、プライベートでも確かにしばらく……そういえば一週間以上は会っていなかったのだ。
その間になにかあった、のだろう。
私、なにかしたかしら。
サシャの思考はそこまでいってしまった。
やっとヴァルファーの前にたどり着いたけれど、スタッフ専用の裏口前で、サシャは少し佇んでしまった。ぎゅっと茶葉の入った袋を抱きしめる。
今までならシャイが用意してくれていた、それ。今は違う。
なにかがおかしい。とてもおかしい。
サシャの胸の中の嫌な感覚はどんどん広がっていった。