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16.騎士が来たけど何かしたの?

 サキュバス討伐? から1週間経った。
 最近は食堂の仕事を手伝っている。
 食堂だと、危険なクエストなんてせずにのんびり稼げると気づいたからだ。

 ハティは奴隷なので働けないが、リリアンやアリアも食堂で働いてくれている。
 サーシャ先輩の指導がすごいのか、2人ともすぐに慣れた。

 今では『スイクーンの寝床』の看板娘が3人になったと話題になっている。
 売上も好調で、俺は給料アップや2号店開業時の店長の座を狙っている。

 ただ、この城塞都市クヴェリゲンの話題はもう一つあり、「魔角が討たれたせいで、最近の魔物の動きが活発になっている」らしい。



 ――――



 俺がのんびり生活をしている食堂の朝。
『スイクーンの寝床』に1人の騎士がやってきた。

 兜はかぶっておらず長い金髪を後ろに伸ばしている女騎士だ。
 ごちゃごちゃした装飾がほどこされた鎧から、かなり身分の高い騎士様だろう。

「ここにエルクとリリアンという冒険者はいるか?」

 意思の強そうな声。
 ついに来たか……

 俺は見張り台で戦闘の結果、うっかり王家の武器と言われるなんとかのバリスタを壊した。
 その弁償金を払わせるために、この騎士が来たんだろう。

 ここはうまくごまかして帰ってもらおう。
 アリアが返事しそうな気配を読み取り、先に俺は答える。

「すみません……エルクとリリアンなんて人はここには……」
「なになに? エルクとリリアンがどーしたの?」

 ハティは朝飯を食ってる手を止めて質問する。
 くっ。居留守作戦は無理か。
 女騎士はハティへ。

「む? 何か知っているのか?」
「えぇ。知ってるもなにも、私はエルクの大先輩であり師匠とも言えるハティ超先輩よ。エルクに話があるなら私にするのが先ね」
「ほー。そうなのか。それは失礼した」

 女騎士は姿勢を整え、ハティの方へしっかりと向きなおる。
 ハティは「うむ」と偉そうにうなづく。

「して、エルク殿はどこにいるのでしょうか?」
「エルクよね……そこにいる、この1年で作り笑顔がやけに上手になった男が、お探しのエルクよ」

 ハティの指さす先にいる俺を、女騎士は見る。
 声だけでなく、視線にも力強さを感じる。
 なんか強そうな騎士さんだ。

「あなたがエルク殿でしたか。私は王家に仕える騎士。クレーシスと申します。以後よろしくお願いします」

 思ったより丁寧な物言い。

「あ、ああ。俺がエルクだ。よろしく……おねがいします」
「本日伺ったのは王家より伝言を預かっているのですが……リリアン殿はどちらでしょうか?」
「リリアンはまだ寝て……ますです」

 俺がしゃべりにくそうにしていると、女騎士クレーシスさんが少し微笑む。

「そんな緊張なさらずに、普通に話していただいて結構です」
「すみま……すまないな」
「いえいえ。して、リリアン殿が寝てるとは?」

 クレーシスさんの質問に、俺はいい案を思いつく。

「あー。それは先日に俺たち指名の高難易度クエストを成功させたから、じっくり休んでいるんだよ。なんといっても俺たちは魔角を倒したからな。明日には次の指名クエストに出発予定なんだ。俺たちは正義のために、助けを求める人を大事にしているんだ!」

 ハティは「そんなのあったっけ?」と顔で言っている。
 俺が早口で言い終わると、クレーシスさんが。

「素晴らしい。騎士の鏡のような人です。わかりました。そのクエストが終わってからまた来ます。いつ頃戻られるでしょうか?」
「えーっと……1週間くらいです」



 ――――



 俺たちは、特に用事も無いのに翌日から隣街のハータへ移動した。
 リリアンは移動する理由を聞いてきたが、「チーズスライム食べたくないか?」と聞き返すと「食べたいです!」と勢い良く答えてきた。

 ハータに着くと、俺たちが前に町を守ったことを覚えており、たくさんの豪勢な料理でもてなしてくれた。

 町の中央では、俺たちの銅像を作っている途中だった。
 ので、俺自身で銅像を完成させた。
 銅像には、その時は仲間じゃなかったアリアを増やしてみたんだが、むしろ喜ばれた。
 美人3人に囲まれ、勇敢に戦う銅像の俺。悪くない。

 俺たちはクレーシスさんのことをすっかり忘れ、1ヵ月ハータを楽しんだ。

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