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11.いつまで壁直してんの?

 昼のハータの城壁の前。
 ハティが偉そうに腕を組んでいる。

「さぁ! キリキリ直しなさい」

 俺は壊れている城壁に手をつき、土魔法で直す。
 城壁はすぐにきれいになる。

「よし。流石私ね。エルクの扱いが一番うまいわ」
「なんだそれ? 昨日もちゃんと直してたっての」
「そんなこと言って、お姉さんを思い出してニヤニヤしてたんでしょ」

 なんか今日のハティはいつもよりとげとげしいな。
 せっかく城壁修復のクエストに連れてきてやったってのに。

 今朝に朝ごはんを食べていると「私たちも連れて行きなさい」とハティが言ってきた。
 なので、今日はリリアンを背負っている。ただ、これまでと違っておんぶしやすいように紐で縛っている。
 両手が空いてて楽ちんだ。
 前に地面に寝かせてるのを怒られたから、なるべく背負うようにしている。

「何リリアンの足触ってニヤついてんのよ。女好き。さっさと行くわよ」
「ニヤついてねぇわ。背負いなおしていただけだ」

 その後、ハティに急かされながら城壁を直した。



 ――――



 昼になり、いつもの倍は城壁を直した。
 今は最後に直した町の門にいる。

 ハティは俺が直した城壁を指でこすり、汚れをチェックしている。
 そこまで丁寧に直してるつもりはないんだが?
 休憩ってことで、リリアンは地面に下ろしているが、そろそろ起きそうだ。
 小声で「ちーずおかわり……」って言ってる。毎日チーズ食ってるけど飽きないのか?

 大柄の門番らしき兵士がのんびり近づいてきた。

「おー。最近城壁を直してくれておる冒険者殿ですかな? 誠にありがとうございます。この町を守る兵士として、穴のあいた城壁では心許ないのでな。ワハハハ」
「あ、どうも」
「ふむふむ。素晴らしい城壁となりましたな。これなら何体魔物が襲ってきても耐えきってみせるでしょうな」

 兵士はマッチョなポーズを取って笑いかけてくる。
 俺が適当に愛想笑いをしていると、リリアンが「むーー」っと不機嫌そうな声で起き上がる。

「なんですか? この揺れは? 寝にくいじゃないですか。ってエルク。ちゃんと私をおんぶしてくださいよ。寝てるときに襲われたらどうしてくれるんですか?」

 リリアンはいきなり文句を言ってくる。
 無理やり起こされた時のリリアンはこんな感じに不機嫌さんだ。

 って、揺れてる?
 俺は地面に手を当てた時、ハティが門の外の平原を指さして大声を上げる。

「ねぇ! エルク。あっちにすごい砂けむりがあがってるわよ」

 俺は指さす方を見ると......
 大量の魔物がこちらに向かっていた!

「なんだありゃ!?」

 マッチョ兵士も驚きの声を出す。

「むむむ。あれはもしかすると、魔物の大量発生。スタンピードではござらんか?」

 なんてことだ。
 魔王軍が大軍で攻めてきたんだろう。
 確か、これまでにも魔物の大群に町を襲われ、多くが滅ぼされてきた。

 マッチョ兵士はガタガタ震えている。
 城壁を直してる時に思ったが、ここの兵士は少ない。恐らくクヴェリゲンやガルアスト砦に多く集めているんだろう。
 とてもじゃないが、この町の兵士だけで防衛できるとは思えない。

「わ、吾輩は緊急クエストを依頼して冒険者を集める。冒険者殿もそのクエストに参加してくだされ」

 マッチョ兵士は俺の返事を待たずに、ギルドのある方へ走っていく。
 かなりビビってたが、ちゃんとクエストを依頼できるか心配だ。

 ハティは腕を組んで俺に向かい、言う。

「エルク。なんとかしなさい。ここのスライム料理が食べれなくなるのは嫌よ」
「へいへい」

 俺は魔物の様子を探ろうと、土魔法を使い始めるが。
 途中でとてつもない疲労感に襲われ、魔法を中断してしまった。急にめまいがする。
 ハティから慌てた声。

「ちょっと、どうしたの? お腹すいたの?」
「いや、ちがう。魔力が足りない。城壁修復に魔法を使い過ぎたかもしれない」
「えっ? どうするのよー!」

 ハティがしゃがんでいる俺の肩を揺すってくる。
 余計しんどくなるからやめろや!

 俺がちょっとイラッとしていると、リリアンが力強く立ち上がる。

「どうやら。私の出番のようですね。よくわかりませんが、サファイアちゃんを召喚すればいいんでしょう?」

 おっと、すっかり忘れてた。
 そういえば、リリアンのドラゴン召喚ならなんとかしてくれそうだ。

「ああ。リリアン。やってくれ」

 リリアンはうなずくと、門の外へ歩き、杖で地面へ丸を描きだす。
 細かい模様のようなものも描いていき、杖が触れたところは青く光っている。
 ちゃんと見るのは初めてだが、リリアンは魔法陣を地面に描いて、ドラゴンを召喚する。
 とても集中しているようで、額からは汗が流れている。

 リリアンが魔法陣を書き終わった頃、冒険者が何組かが町の門から出てきた。

「お? お前たちも緊急クエストに参加するのか? よろしく頼むぜ」

 俺たちに気づいた冒険者が声をかけてくる。
 集まった冒険者たちは諦めと希望を半々に混ぜたような顔で、お互いに励ましあう。

「魔物のスタンピードは最高難易度のクエストだ。お互い生き残っていることを祈ろうぜ」
「腕に自信がないなら、街の避難に向かってもいいんだぜ。俺が少しは時間を稼いでやるよ」
「はっ。こんなことならギルドの受付嬢に告っておけば良かったぜ」

 集まった冒険者たちの中には、真っ青な顔をしている若い少年や女の子もいる。
 みんな命を懸けて町を守ろうとしている。
 守りたいもののために、立ち上がったんだろうな。
 こんな怖い思いは早く終わらせよう。

 魔物のスタンピードによる群れはかなり近づいてきており、あと10分もすれば戦闘になるだろう。

「リリアン。そろそろいけるか?」
「はい。いけます」

 リリアンは大きく深呼吸し、

「来て。サファイアちゃん!」

 リリアンが魔法陣へ杖をつくと、魔法陣を中心に黒いドラゴンが現れた。
 ドラゴンの周囲は黒いオーラがまき散らされ、気温が少し下がったような寒気を感じる。
 でも、頭には赤色のリボンをつけていて、悪い奴じゃなさそうにも見える。

 門に集まった冒険者が一気に騒ぎ出す。
 俺は冒険者に構わず。

「リリアン。やってくれ」
「はい。サファイアちゃん、お願い」

 黒いドラゴン、サファイアちゃんは魔物の群れの左端へ口を開ける。
 口から黒い魔力がビーム状に飛び出す。そのまま右端まで顔の角度を変えながら黒いビームを出し続ける。

 黒いビームが通ったところをみると、立っている魔物は1体もいなかった。

 サファイアちゃんが消えていく。
 リリアンは「ふーーっ」と言ってその場にしゃがみ込む。
 かなり魔力を使ったようだ。

 召喚魔法は、召喚されたものが何をしたかではなく、召喚時間によって魔力を消費する。
 今日の召喚時間は前より長かったので疲れたんだろう。
 俺はリリアンの肩に手を置く。

「お疲れ。サファイアちゃんつえーな」
「はい。サファイアちゃんは最強です」

 俺を見上げるリリアンは、疲れを隠すようにニカッと笑った。
 俺の後ろにハティが来る。

「やるわね。リリアン。私の指示通りに動けていい感じよ」
「いやいや、ハティは指示どころか何もしてないだろ?」
「なっ!? そんなことないわ。私から太陽のようにあふれ出ているカリスマ的なアレがあるから、エルクやリリアンはうまく動けるのよ!」
「んなもんねーわ」
「あの……エルク。ハティのはどうでもいいので、私をおんぶしてください。とても疲れて歩きたくありません」

 俺に向けて両手をあげ、おんぶしろポーズを取る。
 俺がリリアンをおんぶすると、冒険者が一斉に俺たちを囲む。

「あんたらすげーな。どこのパーティだ? 金級か? プラチナ級か?」
「助かったわ。ありがとう! わたしここで死んじゃうんだと思っちゃったわ」
「本当にありがとう。ぜひ酒をおごらせてくれ!」

 たくさんの感謝の声に俺は愛想笑いで返す。
 リリアンは背中ですーすー言い出した。寝てるんだろう。
 ハティは周りの勢いに押されて俺の後ろに隠れている。こいつはなにげに人見知りだ。



 ――――



 その後、リリアンを宿屋に寝かせ、冒険者のみんなとギルドで宴会になった。
 宴会でやたら豪勢な料理に驚いていると、ギルドからの特別報酬らしい。
 ハティは俺の隣に座り、俺たちのパーティの功績を盛っていた。いや、俺たちが成功したクエストって暴食ウサギ討伐と城壁修復しかないんだが?

 俺たちには料理とは別に1000万ティルの特別報酬も出るとのことだ。
 これでしばらく働かなくてもよさそうだな。
 パーティのランクも銅級から銀級に上がるらしい。

 って話を、昼まで寝てたリリアンに話す。

「私が一番活躍したのに何もないのはどういうことですか? せめて大量のチーズスライム料理を用意するのが人としてのあるべき姿ですよ!」

 うーん。リリアンってチーズ好きなんか?

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