④
「ごめんね、あちこち付き合わせて」
三軒店を回って、たくさん付き合わせてしまったことに、ライラは軽くごめんねと言った。けれどリゲルは首を振る。
「そんなことないさ。俺も収穫あったしな」
リゲルは雑貨屋でペンを買っていた。万年筆だ。日記を書くのに使うのだろうか、とライラは思った。もしくは思いついた詩でも書きつけるのかもしれない。
リゲルの買ったそのペンは藍色の軸をしていて、ライラはどきどきしてしまった。今日の自分の服を意識してしまったので。
でも、ちょうどいい、と思う。このあとリゲルに渡すもののことを考えると。
「ここなんだけど。紅茶がとっても美味しいの。種類豊富で」
「ほー。洒落てんなぁ」
ライラの連れてきたカフェを見上げて、感嘆したように言ったリゲルに、そこではっとした。
このお店はどちらかというと女子向けなのである。
白い壁。入口には茶色のランプ。建物に沿って、花もたくさん植えられている。
……かわいすぎただろうか。男のひとには入りづらいだろうか。
「も、もっと落ち着いたとこのほうがいいかな」
思わず言ってしまったのだけど、リゲルは不思議そうな顔をした。
「なんでだ? ライラが気に入ってるとこなんだろう」
「そうだけど」
「じゃあいいだろ。入ろうぜ」
リゲルはまったく気にした様子もなく、先立ってドアを開けてしまった。ライラはそわそわしながら続くことになる。
ああ、もう少し考えてお店を選ぶべきだった。もう少し入りやすそうなお店とかを。
でもこのカフェが知る限り、一番紅茶が美味しいのだ。
美味しいお茶を飲んでほしかった。そんな気持ちで選んだ。
ライラのそんなそわそわをよそに、リゲルはランチのときと同じように、さっさと店員に挨拶をして席を確保してもらってしまった。ほんとうなら、何回かお店に来ている自分が先導するべきだったのに。
でもそれは嫌な感覚ではなかった。恋人にするような扱いのようだったので。こんなふうにされれば、やっぱりどきどきは復活してしまうのであった。