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「皆さま、このようなおうたを大っぴらに歌うのは初めてよね。このおうたを知らない方もいらっしゃると思うわ。だから、まずはワンフレーズずつ、サーシャ様の歌うのに続けて歌うのはどうかしら」
楽譜を握りしめて場を仕切るキアラ姫が一番楽しんでいただろう。
キアラ姫の提案通り、サシャとBGMの楽団は少しずつ歌を進めていった。少女たちの歌声は拙く、おそるおそる、という様子ではあったが、確かに楽しんでくださっているのが良く伝わってきた。
サシャは彼女たちにわかりやすいように、常に歌うよりも丁寧に、はっきり発音するように心がけて歌った。ゆっくり、ゆっくりの進みで一曲が終わり、最後に皆で通して歌った。
それはただの街中流行のポップスであったのに、なによりも尊い歌のようにサシャには聴こえた。そしてこのような楽しみ方で歌を歌うのは初めてだ、と。
皆で楽しむ歌の時間は、あっという間だった。
「ああ、こんなに声を張り上げたことは無いわ。とても面白かったけれど、喉がからから」
笑いすぎたようで涙すら滲ませながら、キアラ姫は満足そうなため息をついた。少女たちも同じだったようで、口々に楽しかったと言い合う。
そこへタイミングよく、お茶が運ばれてきた。
香り高い紅茶に、今日のメインのスイーツ。
ショコラのケーキ。高級そうなトルテも。ショコラのものだけでなく、パイやタルトもたくさん並べられた。
今度は違う意味で少女たちが湧きたつ。
「サーシャ様もご一緒にいかが?」
誘っていただいたものの、そこまで甘えるわけにはいかない。彼女たちには彼女たちの世界があるだろうし。
なのでサシャは「いえ、わたくしは」と言いかけたのだが、そこで不意にまったく違う声がした。