②
ここはバー。いつも歌っている場所。そのように言い聞かせて、頭の中は、歌うべき歌詞とメロディ。
はじめの一曲は、少女が幼馴染の少年に恋をする、甘くもほんのり切ない歌。かわいらしく、しかし想い人に伝えるようにやさしい声音で歌い上げる。
歌いながら思った。
私はほんとうに歌うことが好き。
それを噛みしめられるような時間だった。ほんのりとしたさみしさも同時に浮かんだのだけど。
私は歌姫。『姫』と名がついていても、目の前に腰かけている少女たちとは違って、場末のバーで歌う、ただの庶民の娘。
でもまるで否定はしない。バー・ヴァルファーで歌姫をしていたからこそ、そこへおつかいにやってきたシャイと知り合うことができたのだ。つまり、二人を引き合わせたのは歌であるともいえる。
そういう意味では、サシャにとって歌や、歌姫という仕事は誇るべきで大切なものなのであった。
サシャが歌う間、少女たちの中には、サシャの歌声に合わせて頭や肩を揺らしたり、くちずさむような動きを見せる娘もいた。
二曲目が終わったとき。唐突にキアラ姫が立ち上がった。少女たちだけでなく、サシャもちょっと驚いてそちらを見る。
「ねぇ、皆さま。サーシャ様の歌われた、お歌。おうちでは反対されているでしょうけれど、こっそり歌ったことがあるのではなくって?」