③
ブラシを鏡台の上の、背の高いケースに挿して戻して、ふと引き出しが目についた。
そこにはアクセサリーが入っている。メイクをしたり髪型を整えたりするときに、一緒に選べるように。その中に入れている、ひとつのアクセサリー。
鏡台の前に座って、引き出しを開ける。さらにその中に入っているアクセサリーケースも開けた。仕切りをしてあるそのひとつに、入っているもの。
三日月のネックレスを手に取った。マルシェで買って、すぐにチェーンを切ってしまって、でもそれをリゲルが、ぱぱっと直してくれたものだ。色々な意味で大切な、それ。
朗読会のあの日はドレスがオレンジ色だったので、これは付けなかった。
本当はつけたかったのだけど。リゲルが見に来てくれる日であったので。
でもオレンジの服にオレンジのアクセサリーでは、かすんでしまう。どちらかというと、藍や水色の服に合わせたほうがこのオレンジ色のネックレスは映える。
そう。
水色の髪を持つライラ。
オレンジ色の服を着ていることが多いリゲル。
ふたりにとって、それぞれ身近な色。対極の色だけど、それゆえに引き立て合うことができる。相性なんて、悪くないと思うのに。
色の相関図による相性だの。
もしくは星座占いかなにかだの。
そんなことも色々見たこともある。
そんな、幼い少女のようなおまじないのようなことまで思いだしてしまって。
でも今必要なのはそんな戯れ事ではなく、口に出す勇気。
どうしたら手に入るのだろう。心の奥から絞り出すことが出来るのだろう。わからない。
手のひらに乗せたネックレスをじっと見つめて、そして手を持ち上げた。
そっとくちびるをつける。
オレンジ色の石に軽くキスをして、すぐに恥じ入った。こんなふうに彼のくちびるに触れられたら、なんて思ってしまったがゆえに。