②
別に、男のひとから言ってほしいと思っているわけではない。そういう古風な考えはあまりない。
いや、向こうから言ってくれたら幸せだろうと願う気持ちは、好きな相手がいる身としては当たり前のようにあるけれど、女性から言うのがはしたないとは……少なくともライラはあまり思っていなかった。実行できていないにしても、概念的には、ともかく、そういうふうに思っていた。だから単純に勇気が足りないのだ。
一体、何年こんなふうにしているの。
もうわかりもしなかった。思い切りが悪すぎると思う。
好きなひとがいて、そのひとは近くにいて、そしてちょっとの勇気を出して手を伸ばせば、届くかもしれないのに。
悶々としつつも髪をとかす。普段の手入れがいいので、するするとブラシは髪の間を通っていった。カメリアの油を薄くつけているので、髪はつるつるといつも綺麗だった。
気に入っている、薄水色の髪。いつか彼に触れてもらえたなら。そんな気持ちが髪を手入れすること、ひとつにだって反映されている。
髪を整えるのも済んだので、ブラシを戻そうとライラは座っていたベッドから鏡台の前へと向かった。
そして、ふっと思う。
幼い頃は言えたのに。そう、「わたしがリゲルおにいちゃんと結婚する!」とリゲルの腕に抱きついていた少女のように。
自分もああ言ったことがあった。「大きくなったらリゲルと結婚する!」と。
今でも孤児院のあの少女や、もしくは昔々の自分くらい無邪気であったらよかったのに。
でも無理だ。
ライラはすっかり大人になってしまった。成人ではないけれど、心も体もほぼ大人。大人に近いゆえに、そんなことは気軽にもう言えない。