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 朝一番でプロトタイプARCとディスカッションをしていた俺は、現状をある程度理解していた。
 まあ、スライムが現われるまでは、話半分だったが。

 そして、人工知能が示す文字情報は現実となり、うちのマンションの周囲は大混乱となっていた。
 そういった中、不幸中の幸いと言っていいのか分からないが、半透明なスライムの歩みは遅く、被害に遭っている人は、軽い火傷程度で、その人数も少なかった。

 すると視界に【銀座四丁目交差点にいる、リキッドスライムを倒して下さい】という文字が表示された。
 俺は音声入力で人工知能へ確認を取り、リキッドスライムを倒さねば、銀座四丁目付近が異世界へ転移してしまう事を知る。

 それで自転車に乗り、銀座へ向かっていると、俺と同じく、スライムが見えている人々がいる事に気づいた。

「見えてる人と見えてない人がいるけど、どうなってんの?」
【プロトタイプARC装着者でないと、モンスターは視認できません】

「そっか……んじゃ銀座に行くまで、見えてる奴を片っ端から誘っていけば、そのリキッドスライムってモンスターに勝てるか?」
【それは裕太の技量次第です。しかしあなたは適合者。水の魔法を見て倒す必要があります】

「ああ、分かってるよ。魔法が使えないと人類が危ないってんだろ?」

 こんな話、信じる方がどうかしてる。
 魔法だの、ボスモンスターを倒さなきゃ異世界転移してしまうなんて。

 しかし、周囲のスライムを見ると、これは現実だと思い直した。
 それから俺は見えている人、つまりプロトタイプARC装着者に声を掛け、銀座にいるボススライムを倒しに行こうと声を掛けまくっていた。

 その中でも、スライムをサッカーボールのように蹴り飛ばし、奇声を上げていた佐野さんは、俺たちの戦力になると強く感じさせられた。
 そして、クラスメイトの井上由美を見つけ、三人で一緒に行動する事となった。

 そうやって声を掛けつつ進んでいると、俺たちは十名となり、一路銀座を目指した。
 そのメンツは、高校生や大学生、そして成人の大人たちで構成され、すべてゲーム好きな人達だった。

 確かに、プロトタイプARCが表示する文字情報はゲームっぽいが、行きしなに「このゲームアプリってさ、現実でレベルアップ可能って説明があるんだけど?」という井上由美の声で「マジでゲームかよ!?」となり、俺たちはがぜん士気が上がったのだ。

 全員でアプリを起動し、嬉々としてスライムへ襲いかかり倒しまくった。
 しばらくすると、俺たちはレベルアップを果たし、その効果が現実のものだと確信した。

「裕太くん。僕の空手では効き目が薄かったが、手刀で斬れるぞ?」

 肩で息をしながら奇声を上げている佐野さんが、そんな事を言う。
 俺は柔道なので、スライム相手にどうしようかと考えていたが、一発で失格になる当て身技を使った。

 (かかと)当てという、対象を踏み潰す技で攻撃をすると、半透明のスライムは水風船のようにはじけてしまう。
 ニヤける俺は、それが不謹慎だと感じつつ、子供の頃に戻ったようにはしゃぎながらスライムを倒し続けた。

 そして、全員レベル十になる頃には、俺たちは二十名を超え、ようやく銀座四丁目の交差点に到着した。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「あ、あれがリキッドスライム?」

 ARCがそう表示しているのに、由美はわざわざ声に出して聞いてくる。
 大きさは直径四メートルほどの|楕円《だえん》体で、水のかたまりに見える。

 由美を見るとひざが震えており、集まったメンツの士気も大きく下がっていた。
 きっと今見ている光景のせいだ。

 銀座四丁目の交差点では、おそらくだが、プロトタイプARCの指示に従い、単独でリキッドスライムに挑んだ人達が、屍山血河(しざんけつが)となっていた。
 そこはまさに血の海。濃厚な血臭が辺りを漂い、胃酸が食道を上がってくるのを必死で押さえつけなければならない程だった。

 それに、あのリキッドスライムは人の遺体に触手を巻き付け、体内へ取り込んで捕食している。

「お、おい。こっちに来てるぞ?」
【距離二十メートル。四肢の強制複合現実化(FMR)を行います】

 佐野さんの声と同時に、プロトタイプARCの文字が浮かぶ。
 すると俺の手足の先がむず痒くなり、すぐに収まった。

 両手を見ると、少し色が変わっており、力を入れると金属のように固く変化した。
 こんな機能は聞いてないが、時間がない。
 これで少しはマシな戦いが出来るだろう。

 後ろにいるメンツを見ると、次々に強制複合現実化(FMR)で様々な変化が起こり、全員が謎金属製の武器を持つ事となった。
 そして、由美が持つ薙刀の竹刀が真剣へ変化している。

 それを見て俺はふと思い出す。
(中学生時代の盟友、鈴木夏哉。あいつもいま戦ってるんだろうか)

「ちょっと、あんたリーダーなんだから、しっかりしなさいよっ!」

 つい今し方まで震えていた由美が、俺を睨んでいる。
 どうやら竹刀が真剣に変化した事で、自信を取り戻したようだ。

「知っての通り、あれを倒さなければ、この辺り一帯が消えてしまうんだ。だから俺はあのリキッドスライムを倒す! だけどさ、死ぬまでやる事はない。生き残ればまだまだチャンスはあるんだからな! あれが恐い奴は今のうちにここを離れてくれ!」

 血まみれの惨状を見て、半数は逃げ出すかと思っていたが、誰も逃げ出さない。
 そんな事あるのか?

 命がけの実戦は初だし、相手は得体の知れないモンスターだというのに。
 ……もしかしたら、プロトタイプARCが何らかの手段を用い、俺たちの精神を高揚させているのかもしれない。

 そんな事を考えていると「いくわよっ!!」という声と共に、由美がリキッドスライムに斬りかかっていた。

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