②
「シャ……、ロイヒテン様からのご用事ですの?」
そろそろと尋ねたサシャの言葉は否定される。
「いえ、キアラ様からのご用事で」
「……キアラ様?」
シャイの、いや、『ロイヒテン様』の妹様。サシャのことは気に入ってくれたようだったが。
どうして彼女の名前が出てくるのかも、なにかしらの用事があることもわからずに首をかしげたのだが、言われたことは爆弾であった。
「キアラ様が今度、ご友人と小さなお茶会を開かれるのです。そのとき、歌姫をしてくださらないか、と」
サシャは仰天した。自分が話した脚色があまりに過ぎたらしい。キアラ姫の中ではすっかりサシャは『歌姫のお姫様』かなにかになってしまったのだろう。
「いっ、いえいえいえ!? わたくしのような者には過ぎたお役目で」
思わずお行儀悪くもぶんぶんと手を振ってしまったのだが、彼はふところをごそごそと探ってなにかを取り出す。それは水色にうつくしい金色のレースの模様が入った封筒であった。
「キアラ様からのご依頼が書いておられるそうです。こちらをお読みになって、お返事を下さいませ」
「え、そ、その」
「急かすようですが、私も海を渡って帰らねばならぬのです。国に用もございます。明後日にはキアラ様へのお返事の封書を頂けないでしょうか」
確かにあまりに急な話である。サシャは黙り込んでしまう。