②
「これかわいい!」
雑貨屋さんに入ったときも、単なるチープな雑貨しか並んでいないのにサシャは声を上げてあれこれ手に取ってしまった。
サシャが手にしたのはピンク色の万年筆だった。そう高価ではないが、落ち着いたピンク色にレースの模様が入っている。
「ああ、かわいいね。……あ。これはいいな」
シャイも近くに並んでいたペンを手に取った。それも万年筆だ。濃い茶色をしている。
装飾はなにもない。強いていうならばキャップのふちに金色が彩られているくらいのもの。
「オーダーをつけるペン。新しいの、あってもいいな」
カフェではオーダーを受ければ、ウェイターが小さなバインダーに挟んだオーダーシートに注文を書き込む。そのときに使いたいということだろう。
「買ったらいいわ。これ、きっとシュワルツェの雰囲気にも……あっ。これはどう? それを私が買って、シャイがこのピンクのを私に買ってくれるの」
ぱっと顔を輝かせてサシャは提案する。シャイは可笑しそうに笑って、「じゃ、買ってプレゼントし合おう」と言ってくれた。
王族でもあるシャイにとってはこんなもの、チープすぎるだろうに構わず『気に入った』と手にする。そういうところがサシャは好きだと思う。
雑貨屋を出てからプレゼント包装してもらった包みを交換し合った。
「私もこれ、楽譜のチェックをするときに使うわね」
「ああ。俺のことを思い出してくれよ」
「勿論よ」
言い合って、やっぱり手を繋いで次は本屋へ行った。最近売れている小説はこれだとか、雑誌におまけがついているのが流行なのだということを言い合う。
そんな、平凡極まりない、しかし幸せすぎるデート。あちこち見たいと引っ張りまわすサシャに微笑みついてきてくれるシャイは、ただの街で働くカフェウェイターの男性だった。
でも実際はそれだけではない。
嫌でも意識させられたのは、半月近くが立ち、ニューイヤーの喧騒もすっかり収まったその頃のことであった。