③
リゲルは決まり悪げにがりがりと頭を掻いた。おまけに言った言葉が恥ずかしかったのか、ちょっと頬が赤く染まっている。
逆にライラは言葉を失ってしまった。自分がそんなふうに褒められるとは思わなかったので。
色っぽいって。
それはつまり、大人の女性として見てくれていることだろうか。
妹分とではなく、一人の女性として見てくれていることだろうか。
「それ、どういう」
そこまで言いかけたところで、違う声がした。
「ご準備できましたか?」
年配の女性だった。確か孤児院の院長だとかさっき聞いた女性だ。
「あ、は、はい!」
「あらあら綺麗ねぇ。若いお嬢さんらしく華やかだわ」
院長の女性は嬉しそうに胸の前で手を合わせて、満面の笑みで褒めてくれた。
「ありがとうございます」
お礼を言ったけれど、そして彼女には悪いけれど、リゲルからのさっきの言葉のほうがずっと嬉しかった。初めて会ったひとと、恋をしているひとと比べてしまったら当たり前ではあるけれど。
「そろそろ聖堂で準備をしますが、来られますか?」
「あ、は、はい! 行けます」
頷いたライラに微笑み、そして彼女はリゲルのほうも見た。
「ありがとう。リゲルくんもありがとうね。ライラさんの朗読、きっと素敵になるわ」
「あ、あー……はい。どうも」
リゲルはもう一度決まり悪げな表情になった。でもそれはさっきと少し違う意味なのだろう。
リゲルの言葉の意味。聞きたかったような、でもちょっと不安だったような。
がっかりする気持ちと安心する気持ちを両方抱えて、ライラは「じゃ、じゃああとでね」とリゲルと別れたのだった。