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 髪を下ろして、服も普段着。庶民の着るようなもの。カフェは当たり前のようにとっくに営業時間が終わっているだろうからカフェウェイターの制服ではない。カフェが閉店してからだろうか、待たれていたらしい。
 パーティーであのようなことがあって、そのまま別れたのだ。大変決まり悪げな様子をしていた。
「……シャイさん」
 サシャは彼の名前を口に出し、そこではじめて、この名で彼を呼ぶのは久しぶりだということに気付いてしまう。
「ごめんね。たくさん手伝ってもらったのに満足に挨拶もできずに帰らせることになってしまって」
「いいえ。お、……おうちのほうがお忙しかったのでしょう」
 王室、と言いかけて『おうち』にしておく。このようなところで、誰が聞いていないとも限らない。
「そうなんだけどさ。……どうも。色々残る別れかたになっちまって」
 今はおろしている黒髪をくしゃくしゃと掻き乱して、シャイは言った。
「ちょっと、散歩でも出来ないかな」
 すぐにわかった。
 あのとき言われかけた言葉の続きだ。サシャはごくりと唾を飲んだ。
 あのとき、欲しいと思ったもの。
 きっと今、聞かせてもらえる。
 疲れはあって、早く休みたい気持ちはあったものの、心をすっきりさせたい気持ちも確かにあった。迷うことなくサシャは心の浄化を取ることにして、「ええ」と答えたのだった。

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