③
嵌っている、オレンジの石の上を彼の指がなぞる。庭仕事を生業としているために、ごつごつとしているしっかりした指で。なんだかその指に自分が撫でられているように感じて、くすぐったくなりながら、ライラは「うん、綺麗でしょ」と言った。
「大事にしろよ」
ハンカチから取り上げて、ライラに差し出してくれた。ライラは手を出してそれを受け取る。僅かに触れた指先にどきどきしながら。
「うん。およそゆきにする」
てのひらに乗せてもらったそれを大切に見つめて言ったのだけど。直後、肯定されたもののからかわれた。
「それがいい。お前は不器用だから……」
「もういいでしょそれは!」
ライラが膨れたことで、今度はリゲルが声を出して笑う。
「ま、それでもまた壊しでもしたらすぐに言えよ。しょぼくれてるよりずっといいからな」
笑われたことには膨れたものの、その言葉はとても嬉しくて、ライラはすぐに機嫌を直した。「うん!」と満面の笑みで頷く。
「何度でも直してやるさ」
微笑むリゲルの顔はとても優しかった。穏やかなだけでなく、なんだか愛しげでもあって、ライラは妙にどきどきしてしまう。
もう成人して少しする立派な男の人なのに、リゲルは童顔だ。それこそたまに「学生さんですかとか聞かれる」とかぼやくくらいには。
だというのに、表情はまるで子どもっぽくはない。こんな眼をすると、余計に。手に仕事をつけてしっかり働いていて、力もあって、優しくもある、大人の男のひと。
「オレンジ、好きだよな」
ライラの視線をどう取ったのか、リゲルはふと言った。
「え、あ……うん」
返事をする言葉は一瞬だけ濁った。だって彼みたいだから、なんて言えるはずないではないか。
オレンジ色の服を好んで選んでいたり、そして瞳もオレンジを薄くしたような琥珀の色のリゲル。せめてアクセサリーとしてだけでも傍にいてくれるように感じたい、なんてことは。