②
「……エリザベータ様」
ロイヒテン様の表情が一瞬で硬くなるのが、サシャにはわかってしまった。
このひととはどういう関係なのだろう。良いものでない様子なのは、ここまでで散々目にしてきたが。
「ご挨拶に参りましたわ」
言う声もツンとしている……というよりは不機嫌全開であった。
「それはご丁寧に」
そう言ったロイヒテン様に続いてサシャも立ってご挨拶をし、そしてエリザベータ様はパートナーの男性と共にソファに腰かけた。
ロイヒテン様、大丈夫かしら。なにが大丈夫なのかはわからないけれど。
心配になってサシャはちらりと彼を見てしまった。しかしそれも彼女の、エリザベータ様には気に入らなかったらしい。サシャの頭からつま先までじろじろと眺めまわす。
好奇心しかなかったキアラ姫の視線とはまったく違い、粗探しをしているのが明らかであった。しかし特に文句をつけるところもなかったようで、エリザベータ様が言ったのは単純なことだった。
「この娘(こ)が婚約者ね。ずいぶん子どもっぽい方とご婚約されたもの」
それは完全に嫌味であったので、サシャは、むっとしてしまう。
別に自分が『子どもっぽい』といわれたことにではない。それは幾つかはわからないが彼女のほうが明らかに年上なのだから、子どもっぽいという形容は完全には間違ってもいないといえるので。むっとしたのは、ロイヒテン様を馬鹿にするような言い方であったことだ。
「……彼女はまだ十六ですから」
ロイヒテン様も不快に思ったのは明らかであったが、声音は落ち着いていた。
「若い娘(こ)のほうがよろしいということね」
「……エリザベータ様。お気持ちはわかりますが、サーシャにまで飛び火させないでくださいますか」
このいくつかの面白くないやりとりでサシャはなんとなく察した。
エリザベータ様は昔、なにかしらロイヒテン様と関係があったのだろう。婚約者とか、恋人とか、そういう。
でも事情があって、今はそういう関係ではない。彼女にとってはきっとそれは不本意なのだろう。だからこのようなことを言ってつっかかってくるのだ、きっと。
「そんなつもりではないわ。貴女、ロイヒテン様だっていつまでお傍におられるかわからなくてよ。ロイヒテン様ときたら」
「やめないか!」
サシャに言われかけた言葉。ロイヒテン様が不意に、ここまでとは打って変わった口調で声を上げた。
サシャは驚いてしまって彼を見上げたし、エリザベータ様も同じだったようだ。目を丸くする。