②
その日の夕方、来訪者があった。
「こんちはー。綺麗な枝が余ったんだけど要らないか?」
白い花をつけた一枝を持ってきてくれたのはリゲル。大きく開けていた窓からひょいっと顔を覗かせる。
ちょうどその部屋で過ごしていたライラはすぐそれに気付いて、でも普段なら顔を見るだけで嬉しいのに、今はなんだか悲しくなった。気に入ったネックレスのことを思いだしてしまったので。
今日、たった一回で壊してしまったもの。リゲルに見せて「綺麗だな」とか「似合うな」とか言ってもらいたかったのに。それはできなくなってしまったのだ。
でもやっぱり会えるのは嬉しかったので、ライラは「お疲れ様」と窓に近付いた。きっと仕事終わりに来てくれたのだろう。リゲルの服にはいくらか土がくっついていた。
手にしているのは白い花の付いた枝。なんの花なのかはわからなかったけれど、小さくて可憐な印象の花だ。
「ありがとう。綺麗だね」
ライラが手を出すとそれを渡してくれる。リゲルは誇らしげだった。
「そうだろ。オリーブの花だ。オリーブ園に行く機会があったもんだからな。剪定で余ったやつを頂戴してきた」
「へぇ、オリーブ……実のイメージばっかりだった」
しげしげと見てみるけれど、料理に使うオリーブの実がここからできるのはなんだか不思議な気もした。
「みんなそう言うな。俺は花も好きなんだけど」
「うん、かわいい。ありがと」
ライラは普段通りに話していたつもりだったのだけど、リゲルはちょっと眉を寄せた。
「風邪でも引いたか?」