秘められた力2
連れてこられた場所は、真っ暗な谷底が見える断崖絶壁だった。
何故城の敷地内にこんな場所があるのかが分からない。
場所は恐らく地下。
上を見ても岩盤の様なものしか見えない。
この国に空はあるのだろうか。
無性に空が見たいと思う。
ぬけるような青空はこの国にもあるのだろうか。
「お待ちください。輝けるドライグの星。
栄光と安寧は目前であるのにも関わらずお急ぎになる必要はありません!」
「そのようなお為ごかしの挨拶は良い!
この者が本当に言い伝えの通りの約束の乙女なのか。
それだけが問題なのだ」
乙女は命の危機に瀕すると奇跡を起こすという。
であれば、命の危機を起こせばいい。
国主と呼ばれた人はこちらを見てニヤリと笑った。
私の国で陛下の事は太陽と呼ぶ。この国では星と呼ぶのだろうか。この国で星が見える証左だろうか。
そんな関係の無いことを思ってしまっていた。
この国にも預言の様なものがあるらしい。
その乙女と呼ばれる者が私かどうかを確認したいらしい。
けれど私には何の力もない。命の危機に瀕しても奇跡は起きない。
「この少女が“約束の乙女”だという確信が貴様にはあるのだろう?」
馬鹿にするようにマクスウェルに言い放ったが、マクスウェルは言葉を詰まらせた。
「本物であれば命の危険はない話だ。
それとも真偽不明の話をしたということか?」
「違います」
「であれば、問題はないはずだろう?
それとも何か? お前も付き添うか?」
何をして命の危機を作り出すかは何となく察した。
この崖から飛び落ちろと言うのだろう。
この先がどこに繋がっているのかも知らない。
マクスウェルが言葉に詰まっているところを見ると相当に深いのだろう。
少なくとも簡単に命の危機になる程度に。
「分かりました」
静かにマクスウェルは答えた。