③
既にほとんど準備ができていたこともあり、夕食は和やかに進んだ。前菜のサラダを片付け、例のパイ包みを母が取り分けてくれた。
カモ肉は鶏肉とは少し違って、野の味が強い。少しクセがあるともいえるので好き嫌いはわかれるのだが、リゲルはこれを好んだ。どちらかというと、野の食べ物を好むのだ。
山菜なども好き。植物をいじる仕事をしている彼らしいことだとライラはいつも思う。
「今日はどこのお仕事だったの?」
そのパイ包みを味わいながら、ライラはリゲルに質問した。リゲルは同じようにパイ包みを、ただし口いっぱいに詰め込みながらライラを見る。咀嚼して、ごくんと飲み込んでから答えてくれた。
「貴族のお屋敷の別荘だよ。ちょっと郊外にあるから馬車で行ったんだ」
リゲルはもう立派な大人。庭師としても一人立ちして久しいのだが、庭というものは小さいものばかりではない。ほかの庭師と組んで、大きな庭の整備をすることもよくあるそうだ。
そういう意味では自分勝手ばかりができる仕事ではないのだが、リゲルは明るく人懐っこく、そして快活だ。ひとと関わることが上手で自分でも好きなのであろう。
初等科卒業直後に弟子入りした、壮年の庭師の大将にも、態度の良さもあったのだろう。すぐにかわいがられるようになったし、そのために技術の飲み込みも早かったのだと思う。
今日もその類のものだったようだ。貴族の別荘は、確かに郊外に構えているものが多い。『別荘』だけあって、避暑地であったり、逆に温暖な地域だったりする。暑い季節や寒い季節はそこで暮らすのだ。
まだ春が終わったばかりではあるが、もうすぐ夏になるのだ。そろそろ暑くなってくるだろう。避暑地として使う時期に快適に過ごせるよう、先だって庭師を呼んで、整備を依頼したのかもしれない。
「ああ。だから新鮮なブルーベリーなんて売っていたのね」
ブルーベリーの入手どころを理解して、ライラは笑みを浮かべた。
郊外だけあって、農地が多いのだ。きっとそこで採れたものだろう。それであれば、街中で売っているものよりずっと鮮度がいいに決まっている。
「そういうこった」
当たり前のように言ったが、リゲルもちょっと笑った。持ってきたお土産をライラが喜んだことを嬉しく思ってくれたのだろう。