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今夜のメインディッシュはカモ肉のパイ包みだった。新鮮なカモ肉を切り分けて、蒸した野菜と共にパイ皮で包んで焼き上げる。思ったとおり、母はリゲルの好物をメインディッシュに選んでくれたようだ。
副菜の野菜スープやサラダの準備もあったので、今日は少し忙しかった。簡単な日であれば、具沢山のスープをメインにして済ませてしまう日もあるので。
パイ包みにかけるソースも手作り。果実を煮詰めて作るもので、少々手間がかかる。けれどそれだけに芳醇な香りがして、野の香りのするカモ肉によく合う味だ。ソースもこだわることでこの料理は完成するのだった。
その代わり、デザートは簡素にフルーツのゼリーであった。カットしたフルーツを、寒天の液に入れて固めただけのもの。しかしこれも、作り置きのフルーツソースをかければ立派なデザートに変身するのだった。
ライラの母は、料理に関しては絶妙な力加減であるといえる。
手をかけるところはしっかりと。
しかし、省けるところはとことん省く。
それが家事をうまく回すコツよ、と常から言っていた。
オーブンに入れたパイ包みが良い香りを漂わせる頃に、こんこん、とドアがノックされた。もうノックの仕方だけでわかるようになっていた。仕事を終えたであろうリゲルが訪ねてきたのだ。
「リゲル、こんばんは。お疲れ様」
「ありがと。お邪魔します」
ぱっと玄関へ向かって、ドアを開けるとリゲルが立っていた。仕事を終えたばかりだというのに、リゲルはこざっぱりとした姿だった。これはお招きとなるときは大概そうなのでライラも慣れっこである。
なにしろリゲルの仕事は、庭師。土をいじる仕事だ。土が服や体にくっつかないほうが稀である。
なので、仕事を終えてから自宅なりどこかでシャワーを浴びてから訪ねてきてくれる。仕事上がりのときのほうが、身を綺麗にしているくらいであった。
ライラの家を汚したり、ライラや家族に不快感を与えないように気遣ってくれているのだろう。そのくらい丁寧なひとなのだ。