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 このやりとりはもう、五年は前になろうか。当時のライラはまだ学校の初等科の、十才をそこそこ越した少女そのものであったし、いくらか年上のリゲルもまだ十代半ばであった。
 とはいえ、リゲルの本当の年齢は定かではないのだけど。
 出生が『両親のもとに生まれてそのまま育ちました』というシンプルなものではないので、もしかしたら一、二歳の誤差はあるかもしれないな、と自分で言っていた。
 しかし明るい彼はそんな出自、気にもしないという顔で笑い飛ばす。「どう生まれようと俺は俺さ。今、元気に生きてられりゃ、かまわない」なんて言う、強くある人だ。
 それはともかく、便宜上は、リゲルはライラの五つ上ということになっていた。少し歳は離れているが、幼馴染といえる関係なのだ。
 ライラの暮らす家の二間先の小さな家に、リゲルが養子としてやってきたのはまだライラが三歳になるかならないかというところ。リゲルもまだ八歳前後であったはずだ。
 養子であるリゲルに兄弟はいなかったから、挨拶にやってきたことで知り合ったライラにすぐにかまってくれるようになった。生来の明るく人懐っこく、また面倒見もいい彼の気質にあっていたのだろう。
 ライラも明るく快活で、『大人しい』という言葉とは程遠い少女であったので、それなりに手を焼かされることもあったはずなのに、ちっとも厭がることなく我儘にも何度も付き合ってくれた。二人してこっそり悪戯を企んでそれぞれの親に叱られたことも、数知れず。
 ライラの家は平民といえるレベルではあったが、父親が教師を勤めているという関係で周りからは一目置かれていた。
 それと比べると、リゲルの家は簡素といえるものであった。養子を取る、とはいうものの、なにも大袈裟に『良い家、跡継ぎの子を求めて』というよりは、単純に『子どものできる望みのない夫妻が、行き場のない子を引き取った』というだけの話であるので、ごく普通の、一般家庭である。なのでリゲルは学校の初等科を卒業してすぐに働きに出ていた。
 幼い頃から植物が好きだったリゲルは、庭師を志した。近所に出入りする庭師や整備士にくっついていることが元々あったことも手伝ったのだろう。おそらくそこから口利きをしてもらって、奉公ともいえる、見習いという立場で働くことになった。
 リゲルが庭師見習いとなってからはずいぶん忙しくなってしまったために、ライラはだいぶ膨れたものだ。学校や近所に友達も多かったけれど、リゲルが一番近い存在であったために。
 しかし子どもの順応性というのは単純なもの。数ヵ月でそれにも慣れてしまった。
 ライラは当時初等科に入ったばかりであったが、数年して同じように卒業した。
 が、そのまま働くのではなく上の学校へ進んだ。中等科の学校である。この国では高等科へ進むのは良い家の子息であるが、特別、成績や家の事情に問題がなければ中等科へ進み、そこを卒業して学生時代を終えるのが常とされていた。
 今のところライラは、高等科へ進むかはまだ決めていなかった。ライラが望めば両親は了を出してくれるであろう。なにしろ父親の職場が、その高等科の学校なのであるから。
 しかしライラはそれほど勉強が好きであるというわけではなかった。
 嫌いではない。成績もそう悪いというわけではない。
 しかし、『どうしても進学したい』というわけではない。
 なにかやりたい仕事などが見つかれば、そちらへ進むという方法もある。中等科の最終学年である年齢の、十六才になったライラのここ最近の悩みのタネであった。
 あと一年もしないうちに、中等科は卒業である。高等科へ進むのであれば、早めに決めなければいけない。一応の入学試験もあるのだし。
 ここしばらくのライラは、幼馴染のリゲルを眩しく感じていた。さっさとやりたいことを見つけて、そちらの道へ、まい進しているリゲル。とても格好良い、と思う。

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