①
クリスマスイヴ、つまりミルヒシュトラーセ王家パーティーは翌日の夜。前夜、城に来た日はなかなか寝付けなかった。例のレースたっぷり、天蓋付きのベッドが良いもの過ぎて身に馴染まなかったのもあるが、翌日のことが気になりすぎて。
上手くできなかったら。
ロイヒテン様に恥をかかせるようなことをしてしまったら。
それは『ロイヒテン様』ではなく『シャイ』との友人関係……カフェウェイターの彼とは『友人』だろう……がなくなってしまうだろう不安もあったけれど、それ以上に自分の自己肯定心すらなくしてしまいそうな不安でもあった。
サシャとて小さなプライドくらいはある。
このような大舞台には緊張して、委縮しても当たり前であろうが、シャイの依頼を請けたのだ。
シャイが『サシャちゃんなら大丈夫』と言ってくれたのだ。
その喜びと、そこから生まれた、『大丈夫』と評してもらえた自分に対するプライド。裏切りたくない。
だから眠らないと。寝不足で挑んでは満足な振る舞いもできないだろうし、それは失敗に繋がってしまうだろう。
幸い、夜の仕事を持っているサシャは眠ることに関してはあまり繊細ではなかった。どこでも……というのは難しいが、いつでも眠る、ということはできる。普段は仕事が夜半を回るために眠るのは深夜だが、翌日早くから学校や用事があったりと必要であれば夜早くでも眠るのだ。
なので目を閉じて、羊でも数えることにする。
(ひつじが一匹……ひつじが二匹……)
布団を肩の上までかけて、羊がぴょんぴょんと柵を飛び越えていくところをイメージする。ふわふわとした毛を持つかわいらしい羊たち。
いつのまにかサシャの意識は眠りへ近づいていたようで、そのカウントはやがて違うイメージになっていった。
柵の前に居るのはサシャだった。目の前には高い柵がある。これを超えなくてはいけないことを夢の中でサシャは理解した。
でもこれは随分高い柵だ。ひょいっと超えられるものではない。
どうしたものかしら。
夢の中でサシャはちょっと考えてしまった。
ふと見てみれば、柵の向こうには誰かが居た。
すぐにわかった。シャイだ。ロイヒテン様ではなく、髪を下ろして黒いギャルソンエプロンをした『シャイ』。彼がサシャに向かって手を差し伸べていた。
「サシャちゃんなら大丈夫」
笑みを浮かべている彼が、言った。
「だから、おいで」
ああ、シャイさんがそう言ってくれるなら絶対に大丈夫。この高い柵だって飛び越えられるわ。
サシャの心に安心と決意が生まれた。
「今、行くわ」
さらりと言えてしまい、数歩さがって、すぅ、と息をついた。たっと地面を蹴る。
じゅうぶんに助走をつけて、柵の少し前で地面から蹴り上がった。サシャの体は羊どころではなく鳥かなにかのように高く、高く飛び上がり、少し身を前に向けるだけで柵を軽々と超えていた。
そして目の前にはシャイが手を大きく広げている。満面の笑みを浮かべて。
彼が受け止めてくれる。もう少しで腕の中に。