④
「お初にお目にかかります。サーシャ=アシェンプテルと申します。この度はお招きありがとうございます」
ドレスの裾を持ち上げて、サシャは丁寧なお辞儀をした。
王座に座っているのはシャイ、ではなくロイヒテン様の父上。ミルヒシュトラーセ王国の国王陛下だ。どんなお姿をしているのかは直視できなかった。礼儀という意味もあるが、緊張と不安で心臓がばくばくとしていたせいでもある。
「ようこそいらっしゃった。歓迎する」
言われたが、それは『心から歓迎する』という声音ではなかった。当たり前のように、ロイヒテン様の事情は父上である国王陛下には伝わっている。そこまで欺くことなどできないのだから。
「お顔を上げたまえ」
言われてサシャは、そろそろと顔を上げた。国王陛下と視線が合う。
国王陛下はロイヒテン様によく似ていた。髪は白髪混じりではあるが黒髪で、瞳の色も琥珀色。ロイヒテン様の父であることは疑いようもなかった。そして立派な口ひげをたくわえていた。
彼は値踏みするようにサシャをじろじろと見て、そしてその通りのことを言った。
「……見た目は美しい娘だ。これならまぁ、ロイヒテンと並んでもそう見劣りはしないだろう」
「父上、彼女に失礼では」
国王陛下の隣に立っていたロイヒテン様が言う。
彼は今、『シャイ』とはまったく違う格好をしていた。
王子の姿。カジュアルな部類ではあるのだろうが、黒のかっちりとした衣装を着こんでいる。そして初めてサシャが『ロイヒテン様』としてのお姿を見たときと同じように、髪をすべて持ち上げていて、それはシャイより精悍な様子で、やはり別人のように見えた。
「庶民の娘だろう。これでも十分すぎる褒め言葉だと思ってほしいものだ」
言われてロイヒテン様は黙った。流石にそこまで口答えはできないのだろう。
とんでもない方だわ。お偉すぎる方。
サシャはそのやりとりで臆してしまう。
いえ、駄目。堂々としていなければ。
お腹に力を入れて、ぎゅっと目を一瞬だけ閉じて開けた。