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牢屋

 林道を2人で歩いていると、前から中年の男が走って来た。

「助けてくださーい」

どうやら、大型の蛇のモンスターに追われているようだ。しかも3匹。毒蛇のようなので、もし嚙まれたりしたらただではすまない。しかし、困っている人を放っておくわけにはいかないので助ける事にした。

「私がやるわ」

 サラが意気揚々と名乗りを上げた。

「ガトリングシャワー!」

 大蛇を無数の水の弾丸が襲う。蛇のモンスターのうち2匹はなすすべなく倒れたが、残りの1匹はなんとか難を逃れ、こちらに向かってきた。

「メサオ!」 

 炎がモンスターを包み込み、蛇は丸焦げになった。ここまで焼けてしまうと食べる事はできないな。しかし、残りの2匹は食べられそうだ。

「なぁ、蛇食べてみないか?サラ」
「いや!なんか気持ち悪い」
「なら俺だけで食べるか」

 俺は弱火で2匹の蛇を焼き始めた。

「あのー、危ない所を助けていただきありがとうございました。この御恩は決して忘れません」

 蛇に襲われていた中年の男はそう言うとぺこりと頭を下げた。

「いいんですよ、当然の事をしたまでです」

 アロルは胸を張って答えた。

「よろしければ、お名前を教えていただけないでしょうか?」
「俺はアロル。こっちがサラです」
「私はヨギトと申します。それではもしもの時は必ずお助けしますので」
「気にしないでください」

 ヨギトは再びおじぎをすると、去って行った。
 俺はキレイに焼きあがった蛇を食べ始めた。見た目とは違い、意外とおいしい。不味かったらすぐに吐き出そうと覚悟していただけに、いい意味で予想を裏切られる結果となった。サラにも再び勧めてみたが、頑なに拒否されてしまった。こんなにおいしいものを食べないなんて、外見だけで判断すると損をするいい例だと思った。
 蛇を食べ終えると、俺達はまた林道を歩き始めた。しばらく歩くと、町が見えてきた。ベナパックという町だ。活気があり、かなり大きな町の部類だろう。しかし、この町は先日訪れたハルナタウンとは違い、モンスターに非常に厳しい事で有名な町だ。モンスターを奴隷として扱うために売買している店もあるらしい。
 町に入るとすぐに噂通りの出来事を目の当たりにした。緑の肌をした人型のモンスターの奴隷が俺ぐらいの年の人間の男にいじめられていた。

「おら、言う事きけよ!クズ!」

 男は力いっぱいモンスターを殴った。

「ひぃぃ」
「ちゃんと歩けって!このゴミクズ!」

 男はモンスターを蹴飛ばした。

「もうそのへんにしておいてやれ、モンスターにだって心があるんだぞ」

 俺はいたたまれなくなって、口を出した。

「あん?なんだお前。ひっこんでろよ!ぶっとばすぞ!」

 男は俺にまで乱暴な口調で怒鳴りつけてきた。

「やれるもんならやってみろ。俺は強いぞ」
「おっ、そんな口きいていいのか?あとで後悔しても知らないぞ」

 その時、丁度警備兵が近くを通りかかった。

「あっ、警備兵さーん助けてください!あのモンスターに殴られました。あいつ人に化けてるんです。さっきあいつの真の姿見ました」

 男は俺を指さして言った。

「違うそんなのはデタラメだ。俺は人間だ」
「ここに殴られた痕があるんです。ほら少し赤くなってるでしょ?」

 男は全く赤くなっていない普通の頬を指さした。

「ちょっと君達来てもらおうか」

 警備兵達は俺達の腕をつかみ無理矢理連行した。
 警備兵達は俺達の言い分などまったく聞かず、いきなり牢屋に閉じ込めた。俺とサラは勿論別々の牢屋だ。それにしても、牢屋というのはいるだけで気分が悪くなってくる。こんな場所で一生を終える人達はどれだけ苦しい思いをするのか想像するだけで吐き気がしてくる。もしかしたら自分もそうなるかもしれないという恐怖と戦いながら、時間を過ごした。しばらくすると、看守がやってきて尋問が始まった。

「お前は何しにこの町に来たんだ?」

 何か知らんがものすごい威圧感だ。

「旅をしていただけです。特にこの町に来た目的はありません」
「嘘をつくな!人間に悪さをするために来たんだろ!」
「俺は人間ですって」
「俺は騙されないぞ。うまく人間に化けやがって。正体を見せろ!」

 こんな調子で10分ぐらい無駄な問答が繰り返された。やがて、別の看守が得体の知れない粉を持って現れた。

「この薬を飲め」

 毒かもしれないので、そんなもの口にしたくはなかった。

「飲みませんよ」
「飲まないとここから一生出られないぞ」
「わかりましたよ」

 俺は渋々薬を受け取り一気に飲んだ。それから2時間ぐらい経った頃だろうか。体が熱いし、心臓がバクバクする。おまけにうまく起き上がる事ができない。これが薬の効果か!暴れる輩を強制的に大人しくさせておくためのものだったようだ。やはり予想通りあの薬は毒だ。それから1時間くらいすると今度は急激な眠気が襲ってきた。俺はもしかしたら死ぬのかもしれないという不安を抱きながら、眠りについた。
 朝になり目が覚めた。どうやら死ぬわけではなかったようなので胸をなでおろした。それにしても何やら騒々しい、脱走でもあったのだろうか?やがて数人の看守と共に一人の男がやって来た。よく見ると蛇のモンスターから助けたヨギトだった。

「おお、やはり貴方でしたか。なんという事だ。おい、すぐにお出ししろ」
「はい、副所長」

 ヨギトさんはこの刑務所の副所長だったのか。牢屋から出るとヨギトさんと看守達はペコペコと謝った。

「本当に申し訳ありませんでした、アロルさん。まさか貴方が捕まっているとは知らず到着が遅れてしまいました。私が目を光らせていればこんな事にはならなかったでしょうに」
「いえいえ、助かりましたよ」
「看守達が貴方に無礼な態度をとっていたようなので後程厳しく指導しておきます」
「そうですね。ありがとうございます」
「いえいえ、貴方がいなかったら今頃私はモンスターに殺されていましたからねぇ、感謝してますよ」
「あの、サラもすぐに出してもらってもいいですか?」
「はい、すぐに手配します」

 俺とサラはすぐに刑務所を出た。サラもあからさまに不機嫌な様子だった。

「なんで私がこんな目にあわなきゃいけないのよ、まったく!」
「俺なんて変な薬まで飲まされて死ぬかと思ったよ」
「あっ、私もそれ飲まされた!立てなくなるやつだよね?」
「そうそれ。俺達はすぐに解放されたから良かったけど、あんな薬毎日飲んでたらホントに死ぬんじゃないか?」
「かもね、ヨギトさんには感謝しないとね」

 俺達は人通りの少ない町の裏通りを歩いていた。すると、なんという偶然だろう、嘘をついて俺達を牢屋送りにした男が目の前を通り過ぎた。俺はそいつを見ただけで怒りが爆発しそうだった。

「おい、ちょっと待ちなよ、兄ちゃん」
「おお、あんたらか、よく出てこられたな」

 何事もなかったかのように男は言い放った。

「お前のせいで散々な目にあったんだ、責任をとってもらうぞ」

 俺はすごみをきかせた声で男を脅した。

「お、お前が俺につっかかってくるからだろ」

 男は怯え始めた。

「問答無用」

 俺は男の顔面に思いっきりパンチを叩き込んだ。

「いてぇー」
「私にもやらせて」

 サラは男の股間を蹴った。

「ふぎぃー」

 男は情けない声を上げ、見苦しく股間を押さえている。

「これで少しは気が晴れたわ」
「もう二度と悪さをするんじゃないぞ」

 俺達はそう言い残しその場を去った。

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