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大豪邸

 ハルナタウンという町に着いた。この町は他の町と決定的に違う事がある。それは、モンスターと人間が共存しているという事である。モンスターは基本的に気性が荒い者が多く、人間を襲う種族が多いため、討伐の対象となる事が多い。中には奴隷として人間にこき使われている者達もいる。そんな中、この町では人間とモンスターが平等に扱われており、モンスターにも人権が認められている。しかし、やはり人間とモンスターの共存というのは難しく、トラブルが絶えないという。
 町に着いて早々、サラは用を足したがっていた。

「ちょっとトイレ行ってくるからここで待ってて、アロル」
「ゆっくりしてきなよ」

 サラは急いでトイレに向かった。少しして、サラが戻って来たが何やら様子が変だった。

「好き好きアロル!私を抱きしめてー」
「何を言い出すんだ!?いきなり」
「いいから抱きしめて…」
「わ、わかったよ、こうか?」

 俺はサラの背中に両手を回し、ギュッと抱きしめた。サラも同じように俺を抱きしめた。

「愛してるわよ、アロル」

 サラが色っぽい目つきで俺を見つめた。

「一体どうしたんだ?なんかお前変だぞ、サラ」
「ずっと、ずーっと好きだったんだよ、アロル」
「そ、そんな事急に言われても…」

 サラは鼻をクンクンさせると、俺の体から手を離した。

「あっ、私もう行かなきゃ!じゃあね」

 サラは逃げるように去って行った。3分ぐらい経ち、またサラが戻ってきた。

「ふー、さっぱりした。さぁ町を見て回ろうか、アロル」
「あ、あのさサラ、さっきのは本気なのか?」

 俺はたじたじしながら、問いかけた。

「え?さっきのって?」

 サラはきょとんとしている。

「さっき俺の事を好きだとか愛してるとか言ってただろ?」
「何言ってるの?夢でも見てたんじゃないの?」

 おかしいな、確かにさっきサラが言った言葉なんだが…俺は一瞬頭が混乱したがすぐに答えを見出した。

「もしかして、サラに化けたモンスターだったのかな?」
「きっとそうよ。外見だけだと見分けがつかないのいるから」

 俺はちょっと残念な気持ちになった。
 俺達は町の散策を再開した。色々と見て回ってみてやはり2人共同じ感想を抱いていた。

「ホントこの町って人間とモンスター仲いいよね?」
「ああ、こんな町珍しいよな」

 俺は頷きながら答えた。

「あっ、でもやっぱりそうじゃないのもいるみたい。あそこ見て」

 サラは2匹の人型のモンスターが1人の14才くらいの男の子をいじめている現場を指さした。
 どこの社会にもはみ出し者というのは存在するものだが、やはりこの町にもそういう輩はいるようだ。どれだけ手を尽くして、人間とモンスターが共存できる社会を築こうとしても、クズは生まれてしまうものなのだなぁとしみじみ思った。

「おい兄ちゃん、今俺にわざとぶつかったんだよな?」

 1匹のモンスターがすごんでいる。

「誤解ですって!さっきから何度も言ってるじゃないですかー」

 少年は怯えながら弁解した。
 するともう1匹のモンスターが笑いながら言った。

「こんな奴さっさとボコボコにして、遊びに行こうぜ」
「そうだな、おりゃ」

 そこで、俺は威勢よく飛び出した。

「待て!少年を離してやれ。嫌がってるだろ」
「なんだお前、殴られてぇのか!」

 モンスターが脅してきたが、俺には全くこたえていない。この程度のモンスターであれば魔法を使うまでもなく、楽々勝利する事ができるからだ。俺は自身満々で言った。

「痛い思いをする前に立ち去った方がいい」
「この野郎なめやがって!」

 モンスターが殴りかかってきたが、ひらりと身をかわし、回し蹴りを相手の側頭部にくらわせた。相手は1発でダウンした。

「ひ、ひぇー」

 もう1匹のモンスターは震えながら一目散に逃げ出した。

「ありがとうございました」

 少年はお礼を言うと、頭を下げた。

「いいって事よ、これからは気を付けるんだよ」
「あの、お礼をさせてもえませんか?」
「別に気にしなくていいけど、まぁ何かくれるならもらっておこうかな」
「では、僕について来てください」

 言われるままに少年について行った。少年は大豪邸の前で止まった。

「ここが僕の家です」
「こんな広いおうちに住んでるの?すごい大金持ちの息子さんだったんだなぁ」

 俺は驚きを隠す事ができなかった。田舎者なのでこんな豪邸は見た事がなかった。キョロキョロと豪邸を見回した。俺の10億ギンドでもここまでの豪邸を買う事はできないだろうなぁ。

「少し待っててください」

 そう言うと少年は家の中へと入っていった。

「まさかこんなものすごい家に住んでるなんて思わなかったよな、サラ」
「そうね、私こんな大きなおうち見た事ない」

 サラも田舎者なので、俺と同じ感想だった。
 しばらくすると少年が家から出てきた。

「お待たせしました。どうぞお上がり下さい」
「それではお邪魔します」

 家の中も高そうな豪華な家具が揃えられていた。家具に目を奪われていると奥から少年の父親らしき人が出てきた。

「この度は息子が大変お世話になりました。私町長のダラスと申します」
「町長さんだったんですか。立派なお屋敷に住めるわけだ」
「何かお礼をしなければなりませんね…そうだ、ウチでお食事をとって頂けませんか?シェフに腕によりをかけて作らせますので」
「それはありがたいですね、是非ごちそうになります」

 2人は食堂に案内され、食事ができるまでしばらく待つように言われた。

「こんなに広い食堂だと緊張しちゃうね、アロル」
「ああ、でも食事楽しみだなぁ。あっ、食事の前にトイレ行かなきゃ」

 俺は席を立つと食堂を出て、トイレを探した。トイレを探しているとダラスさんの部屋らしき場所から、ダラスさんと息子さんの声が聞こえた。少しドアが開いている。ダラスさんにトイレの場所を聞こうと思い近づき、ドアの隙間から中をのぞいた。するとそこにいたのは2匹のモンスターだった。なんとダラスさんとその息子さんはモンスターだったのだ。俺は驚いて少し扉に触れて音を出してしまった。

「誰だ!?」
「俺です」
「貴方ですか…私達の本当の姿を見てしまいましたね」
「見ましたが特に問題はないのでは?」

 俺は首を傾げた。

「大問題ですよ。誰にも知られてはいけない秘密を貴方は知ってしまったのです。残念ですがここから生きて帰すわけにはいかなくなりましたね」

 ダラスさんは伸びる腕で攻撃してきた。俺は間一髪でかわすと今度は伸びる足で攻撃してきた。ちょっとかすりはしたが、なんとか無事だ。

「やめてください。怒りますよ」
「申し訳ないが死んで頂きたい」

 ダラスさんはパンチとキックをうまく組み合わせ、なんとか俺を殺そうとしてきた。俺は仕方なく、炎で反撃した。

「メサオ!」

 炎がダラスさんの体を取り巻く。

「ぎゃあー、やめてくれー」
「もう、俺を殺そうとするのはやめてくれますか?」
「やめる、やめるから助けてくれー」

 俺は炎を消した。

「なぜ、モンスターの姿を見られるのがそんなに嫌なのですか?この町では誰も気にしないんじゃないですか?」
「表向きこの町は人間とモンスターがうまく共存できているように見えます。しかし、まだまだモンスターに対する偏見は根強いのです。真の意味での平等はずっと先の話です。もし私がモンスターだという事が世に知られたら、たちまちのうちに町長の座を追われ、肩身を狭くして生きていかなければなりません。苦労して築き上げてきたものを壊したくはないのです」
「そうでしたか…でも安心して下さい、俺は絶対誰にも貴方がモンスターだという事はしゃべりませんから」
「本当ですか!?よろしくお願いします」

 俺とサラは食事をごちそうしてもらう予定だったが、キャンセルして屋敷を出た。

「ちょっとー、せっかくごちそうしてくれるって言ってたのに帰っちゃうのー?」
「色々あってな。またの機会にしようよ、サラ」
「ちぇっ、楽しみにしてたのになぁ」

 サラは愚痴をこぼしながら、歩き始めた。

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