一件落着?
なんと言いますか……今回で何度目ですかね、と、思わずため息が出てしまう程、しつこいあのポルテントチーネとその手下をまたまた捕まえた僕達なわけですが、引き取りにやってきた辺境駐屯地の隊長ゴルアも、
「まったく、こいつだけは……」
と、その顔に複雑な表情を浮かべていました。
捕まえる事が出来て安堵しているのが半分と、また逃げ出されたら面目どころの騒ぎではないと思っているのが半分といったところでしょうか。
「とにかく、今回は前回以上に警備が厳重な牢獄が準備されてるからな、覚悟しておけよ」
ゴルアは、イエロ達によってグルグル巻きにされたポルテントチーネに向かってそう言ったのですが……そんなゴルアに対し、ポルテントチーネは、
「……心配しなくても大丈夫よ……アタシはこれでお終いだからさ」
どこか冷めた口調でそう言いました。
「これでお終い? どういうことだい?」
僕が思わずそう聞いたのですが……いつものポルテントチーネですと、ここで罵詈雑言を口にするか完全黙秘をするのがいつものパターンです。
しかし、
今日のポルテントチーネは、僕の方へ顔を向けると、
「あぁ、簡単なことさ。アタシの後ろ盾をしてくれてた方々からね、ラストチャンスとして今回の任務……魔導船の強奪を厳命されてたんだけど……それに失敗した以上、今までのように助けてはもらえないってことさ」
「あぁ、そうなんだ」
ちょっとびっくりした感じでポルテントチーネの言葉を聞いていた僕。
その横では、ゴルアと副隊長のメルアが、ポルテントチーネの言葉を慌ててメモに書き写しています。
何しろ、今までのポルテントチーネは捕まって拷問を受けても肝心なことは何一つ口にしてきていませんでしたからね、この証言だけでも相当貴重なんでしょう。
しかしまぁ、ポルテントチーネの狙いが定期魔道船だったことと、その魔導船を狙っている黒幕がいたことだけはよくわかりました。
ポルテントチーネがここで見限られるとなると、今度は別の刺客が差し向けられないとも限りませんね。
今までのポルテントチーネの所業を振り返って見ますと……
各地であくどい商売をしたり
各地で妙な儲け話を吹聴したり
時に実力行使で事をなそうとしたり
と、まぁ……正直何をしてくるかわかったもんじゃないってことだけはよくわかります。
確かに手法には問題がありまくりでしたけど、ポルテントチーネ商会は王都でもそれなりに名前が通っていたお店ですし……もしポルテントチーネがまっとうな商売を行っていたら、案外、そっちの方でも成功していたのでは、と思ったりしてしまいます。
まぁ、こればっかりはなんとも言えませんけどね。
僕がそんな事を考えていると、ポルテントチーネが僕の顔をじっと見つめていることに気が付きました。
その視線に気が付いた僕が、ポルテントチーネへ視線を向けると、
「……あんたには参ったわ……完敗よ……やることなすこと、あんたが絡むと全部失敗しちまった……このポルテントチーネ、完敗を認めてあげるわ」
そう言うと、ポルテントチーネは投げキッスよろしく、口をチュっと動かしました。
そこに横から飛び出して来たスアが、まるで空中を浮遊しているキスマークをたたき落とさんとばかりに、手をわさわさ振りながら乱入してきたのは、言うまでもありません。
そんなスアの様子を、ポルテントチーネはクスクス笑いながら見つめています。
「まったく、見せつけてくれるじゃないのさ……ふふ」
スアと僕に向かって微笑したポルテントチーネ。
その後、準備が整ったゴルア達によって、ポルテントチーネは王都へ運ばれていきました。
スアの転移ドアの向こうには、まるでこれから戦争に行くのではないか? と思ってしまうほどに重装備をしている衛兵達が待ち構えていた次第です。
まぁ、それもそうですよね……
今まで何度も何度も脱獄を繰り返されているわけですし……王都の衛兵のみなさんも、相当面目を潰されているのだけは間違いありませんから……
そんな重武装なみなさんに周囲を重囲されながらポルテントチーネは衛兵局の中にある牢獄の中へと移送されていきました。
◇◇
「いやぁ……これで、あの女のも最後になってほしいものでござるな」
消え去っていく転移ドアを見つめながら、イエロが腕組みしたまま頷いています。
その横で、セーテンも頷いているのですが……
確かにポルテントチーネは捕縛されましたけど……そんなポルテントチーネを何度も助け出したり、資金援助を行っていた黒幕……おそらく、闇の嬌声とかいう集団はまだ残っているわけですし……
「……出来れば、このまま何事もなく終わってほしいものだけど……」
そう呟いた僕ですが……成功している僕の店、コンビニおもてなしを、闇の嬌声が見逃してくれるとは思えないといいますか……
そんなことを考えていると、僕の手をスアがギュッと握ってくれました。
スアは、にっこり微笑むと、
「……大丈夫、まかせて」
そう言いながら、右手の親指をグッとたてました。
なんと言いますか、その姿が神々しくすら感じてしまいます。
そんなスアの向こうでは、
「何者が襲ってこようとも、このイエロがすべて返り討ちにしてみせるでゴザル」
そう言いながら、イエロが剣をふるっています。
「ダーリンとそのお店に迷惑をかけるやつらは、このセーテンも黙ってないキ」
その横で、セーテンも腕を回しています。
そうですね、みんなもいることですし、僕一人で悩むのではなく、みんなで頑張っていけば……
そう思った僕は、スアの手をギュッと握り返しました。
「そうだね、みんなで頑張っていけば大丈夫だよね」
僕がそう言うと、スアは笑顔で頷きました。
こうして、随分長きにわたったポルテントチーネとの抗争は終わり……になったのかなぁ……
◇◇
その後、ガタコンベに戻って来た定期魔道船に乗船して、勇者ライアナに様子を確認したところ、
「私の防御魔法で、どうにか本体に影響は出ませんでした。お客様や積み荷も全て無事です」
とのことでした。
そのおかげで、戦線から離脱した定期魔道船はそのまま通常の運行をしていったそうです。
一応スアにも船体を確認してもらったのですが、
「……うん、問題ない、よ」
とのことでした。
しかし、ホント……勇者ライアナが乗船していなかったらと思うと、ぞっとしてしまいますね……
とにもかくにも、ポルテントチーネの話だと、闇の嬌声がこの魔導船を狙っているらしいので、今後はスアとも相談して定期魔道船に迎撃用の武器を準備しておかないと、と思ったりもしている次第です。
一通りのチェックを終え、僕とスアが下船すると、定期魔道船はいつものように飛び立っていきました。
さて、僕も本店の営業に戻らないと……
僕は、スアと手をつないでコンビニおもてなし本店に向かって歩いていきました。